「村西とおるのようなしゃべりですね」と言われた日
2022年11月5日ー6日。
中野セントラルパークで開催された羊フェスタ。私は5日に顔を出した。最近、すっかりお世話になっている「ガチ中華」ブームの立役者とも言える東京ディープチャイナ研究会が関わっているようで、これはと思いいそいそと足を運んだ次第である。
会場には13時過ぎに訪れたのだが、ここは東京ディズニーランドか!と思わせるほどの盛況ぶりでとてもじゃないがひとつの料理を味わうのに最低1時間はかかりそうな勢いの行列があちらこちらに出来ていた。
で、東京ディープチャイナ研究会の代表である中村正人さんにご挨拶をし、そのブースへとお邪魔をした。お目当ての羊肉はその時にはなかったが買いこまれた缶ビールを昼間から、堪能した。それはもう、学園祭さながらの雰囲気である。お祭り好きの私のテンションがいやが上にも上がった。
ブースでは東京ディープチャイナが手掛けた本も販売されていた。
で、ビールも飲み、ほろ酔い気分の私は学生時代のというか、営業マン気質というか、お遊び気分でこの本をイベントの通行人相手にPRすることにした。もちろん、私の手掛けるPlanet of foodの宣伝も目論んでのことだ。
「今年の流行語大賞にノミネートされたガチ中華知ってますか?」
などと調子を良く声を掛けて本の中身を紹介していた。その様子を見ていた、ディープチャイナの関係者がぽつりと言うのだ。
「しゃべりがもう、村西とおるですね」
そうか、俺のしゃべりは村西とおるっぽいのか。とはじめて指摘された瞬間であったがあながちそれも間違いじゃない。むしろその人はよく嗅ぎ取ったものだと感心したぐらいである。
村西とおるさんと言えば、伝説のAV監督であり、近年では本橋信宏さん原作の「全裸監督」の主人公としても有名な方だろう。もちろん、私もよく存じ上げている。本橋さんの著書の一つ「悪人志願」を拝読し、村西とおる監督を成功に導いた「応酬話法」についても多少なりとも考えたものである。その根幹をなすのは人は否定する理由はそんなにない!例えば英会話の教材を売るにあたって「なんだこれ。この教材、火を吹かないじゃないか!」とは言わない。「この教材、食べれないじゃないですか?」とも言わない。言われることは大体決まっている。「値段が高すぎる」「今すぐ決めれない」「必要性がない」大体、多くて3つか4つであると。だからその返しをいくつか用意すればいい。というのが根幹をなす考えである。本橋さんの本には実際の内容も紹介されている。
応酬話法?そんなのどうやんの?という疑問を答えるか如き、説明に唸った。確かにこれなら破格の英会話の教材であろうが、AV出演に悩む女の子を口説き落とすことが出来るのだろうと深く感心した。
それから、どれぐらいの月日は経ったのかは定かではないが、ある時、「説得」をテーマにした特番があり、村西とおる監督に「絶対テレビ出演をしないラーメン店の店主を口説くためにはどうすればいいのか?」というシミュレーションのテープを見る機会があった。
そこには本橋さんの本の中でしか知り得なかった「応酬話法」の披露する村西さんの姿があった。それはもう、圧倒的なパワーに満ち溢れた内容で私はそのテープをコピーし、自宅に持ち帰ったほどである。それを見て、何かに使うわけではなかったがそのVHSテープは繰り返し見た。
西田という野太い声を出す若手の放送作家がラーメン屋の店主に扮し、ディレクター役の、村西監督の取材依頼を断るという設定の動画だ。私はこの動画を繰り返し見ることでいくつかのことに気付いた。
それは何だろうか普遍的な営業テクニックかもしれないし、女性を口説く時に使えるかもしれないし、なんか知らないが人生で知っておいたらいつか使えそうな話術に見えたのだ。この時のVHSテープはすでに処分をされたために手元にはない。私の記憶の中にしないがちょっと再現をしたい。
村西「おやっさん、あなたが作るラーメンをぜひ、取材させてください。」
店主「あのね、何度も言ってるけど、ウチは全ての取材を断ってるんだよ。
早く帰ってくれ。邪魔なんだんよ。」
村西「あなたが丹精を込めて作り上げたラーメン。それを簡単に、おいそれと紹介したくはないという気持ちは私もよーく分かります。しかしですね、私にもお時間をちょいとばかしいただきたい。私は福島の田舎から出てきたものですが、お袋の年齢が90を迎えようとしています。余命いくばくもないお袋に、私が東京で頑張っている姿を一目見せてやりたい、東京で出会った最高ラーメンの食べ、それを全国の皆さんにお届けしている私の姿をどうかお袋に見せてやりたいんです。
「お袋、見てるか!!このラーメン美味いぞっ!!」
私は言いたいんです!!おやっさん、あなたが本気で作ったラーメンを私は伝えたいんです。」
とまあ、そんな感じのニュアンスだったと思う。とにかく圧倒的な熱量だった。村西さんが福島の出身で若い頃は貧しい生活をしていたことは事実だろうが、今にも死にそうかどうかは明らかな虚の部分であろう。でも熱量が虚を上回り、現実にも見える手法に私は度肝を抜かれていた。
虚実入り混じったやりとりはシミュレーションであったが、現実でもOKしそうな勢いのしゃべりであった。企画書を通すにも熱量は必要だということはすでに分かっているつもりであったが、心を揺さぶるポイントと圧倒的な振る舞いが大事なものだとこの時、思い知った。
そしてもう一つ、大事なのは「言質を取る」ということであるが、またの機会に書こう。