ブロードウェイで秒殺された日本人の話【キンコン西野】
「すごいから」といって、中に入れるわけじゃないんです
今年だけで何度目になるか分からないぐらいのニューヨークにおります。
言うまでもなく、ニューヨークに来ている理由はブロードウェイ版のミュージカル『えんとつ町のプペル』の制作なわけですが、「制作」と言っても現場で手を動かしている(作業にあたっている)わけじゃなくて、今回の主なミッションは「顔合わせ」です。
そういえば3週間前のニューヨークもメインは「顔合わせ」で、なんなら来月のニューヨークもメインは「顔合わせ」です。
今回は途中、現地メディアの取材が入っているのですが、まだ作品もできていないこのタイミングで取材を受けたところで告知するものが何もないわけで、この取材も、やはり「顔を売ること」「繋がりを作ること」が主な目的です。
このように、いきなり手を動かせるわけじゃないんです。
村の面倒なルールというのは「外敵の力を無効化する為(自由競争させない為)」にあって、その力がブロードウェイは特に強くて、ブロードウェイ村の住人にならないことには本当に何もさせてもらえません。
「俺の方が踊れるだろ?」とか「俺の方が歌が上手いだろ?」でオラオラ進められる世界じゃないんですね。
ときどき日本のニュース番組で、「日本人の○○さんがニューヨークで公演をおこなって、現地のお客さんからスタンディングオベーションをもらいました!快挙ですっ!」みたいなニュースを見かけることがあると思うのですが、あれは嘘じゃないんですけども、「すごいねー!上手いねー!じゃ、日本で頑張ってくださいねー!」というのが現地の人間の本音です。
なので、そのニュース以降、話を聞かないでしょ?
現地の人間をそんなに沸かせたのなら次がありそうな気がするじゃないですか?
「すごいから」といって、中に入れるわけじゃないんです。
「それはそれ、これはこれ」の世界で、ブロードウェイ村の住人以外の活躍はブロードウェイ村ではノーカウントになります。
なので、ここの進め方を見誤っちゃいけないわけですが、おそらくこれは大なり小なり、ブロードウェイミュージカルの世界以外でも、海外戦では普通にあることで、日本でも「グローバル化」が叫ばれていますが、まずは、ここの教育(海外の村に入るノウハウ)が大切っぽいです。
日本人がメチャクチャやりそうなミス
次に『夢と金』のバランスについてお話ししたいと思います。
ブロードウェイで作品を作るとなると、当たり前だけれどお金はかかっちゃうので、「お金用意できる?」という身も蓋もない質問が一発目に飛んでくるんです。
そんな質問に慣れていない日本人からすると面をくらっちゃうし、「結局、お金の世界かよ」と思っちゃいますよね?
だけど、実際のところは「結局、金かよ」ではなくて、‥お金を用意できないと始められないのはその通りだし、儲からないと一瞬でクビにされるエンターテイメントビジネスの世界であることには間違いないんだけど、一方で、ブロードウェイ村の人達は、お金の匂いをすっごく嫌う人達でもあるんです。
もちろん中には「儲かればいい」という人もいるのかもしれませんが、僕が会ってきた人の中に、そんな人はいなくて(つまり、そういう人の割合は極めて少なくて)、多くのプロデューサーや投資家や劇場オーナーは「文化」や「理念」をものすごく重要視していて、この理解を見誤ってしまうのがまさに日本人が欠落しているマネーリテラシーの部分だと思います。
彼らは確かに「お金」の話をするのですが、それは文化や理念を守り抜くために必要だからしているわけで、「ビジネス」にしないと文化や理念を守っていけないからビジネスの話を真正面からしているわけで、お金を儲けたいからお金の話をしたいわけでも、ビジネスをしたいからビジネスの話をしているわけでもない。
前に聞いた話がすごく面白くて、日本からきたカンパニーが、ブロードウェイのプロデューサーや投資家に「こうすれば儲かりますよ」というプレゼンをしてきたんですって。
「私たちは、こんなビジネスモデルを作ってきました」みたいな感じで。
つまり、そのカンパニーは、「ブロードウェイは、エンターテイメントビジネスの世界だし、お金の話をしているから、お金儲けが好きなんだろう」と思っちゃったわけですが、これは大いなる勘違いで、一瞬でブロードウェイ村から閉め出されたそうです。
日本人がメチャクチャやりそうなミスだと思っていて、それもこれも、お金の教育を受けていないから、「お金の話をする人」の気持ちが分からず(お金を目的としている人と、お金を手段としている人の見分けがつかず)、こんなバカな結末を迎えているわけで、ここも教育だなぁと思います。
話をまとめると、グローバル化が叫ばれている今、「村に入るノウハウ」と「お金の教育」は「英語教育」と同じぐらい必要だなぁと思います。
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