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地域通貨を守る為に生まれた町の物語byキンコン西野

このnoteは2020年1月11日のvoicyの内容を文字起こししたものです。
voicyの提供:ミウラアサコさん

どうも。キングコングの西野亮廣です。

お笑い芸人をしたり、絵本作家をしたり、国内最大のオンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』の運営をしたりしております。

今日は、「地域通貨を守る為に生まれた町の物語」というテーマで、お話したいと思います。

さて、近況報告としては、ここ最近、舞台『えんとつ町のプペル』の稽古の見学に行きました(2019年1月21日から上演)。その日は、通し稽古の初日で、まだ衣装も美術も揃っていませんでしたが、それでも本当に素晴らしいものでした。

そして現在は、舞台と同時並行で、映画『えんとつ町のプペル』の制作も進めています。


これまでにも色々なところでお話ししていますが、絵本『えんとつ町のプペル』というのは、『えんとつ町のプペル』という物語の途中を切り抜いたもので、そこでは、内容は全体の2~3割ぐらいしか描かれていません。だから、「なぜあんな町が生まれたか」とか、「絵本のその後の物語」というのは、まだ描かれていないんです。

いわば絵本というのは、映画に足を運んでもらうための『チラシ』と言えます。 

ただ、『チラシ』といっても、手を抜いてはいません。本気で絵本を作って、本気の『チラシ』を作りました。
なぜなら、いきなり映画を出しても、誰も見てくれないからです。
映画に興味を持ってもらうために、まずは絵本を出したという順番です。

なので、映画化のいきさつとしては、先に映画『えんとつ町のプペル』の全体のストーリーがあり、その一部を切りとって絵本にしたところ、ヒットしたので、2020年の今年に映画化が決まったということです。

ということで、舞台や映画で初めて『えんとつ町のプペル』の全体のストーリーをお披露目するわけですが、そこには絵本には描かれていない物語があります。

それが、今日お話しする『地域通貨を守る為に生まれた町』です。

お金は『所有』するな

「『地域通貨』と『えんとつ町』ってどういうこと?」って思いますよね。でも、実はここにはすごく関係性があります。

この話を遡ると、まず僕が一番好きな作家さん・ミヒャエル・エンデの話をすることになります。

ミヒャエル・エンデは、『モモ』、『はてしない物語』、そしてあの『ネバーエンディングストーリー』などを書いたおじさんです。
彼は、ファンタジー作家さんですから、世界平和を願っていました。ただ、その世界平和を願う彼が追求していたのが、実は『経済』や『お金のこと』なんです。

『お金のこと』というのは、「どうやったら稼げるか」みたいな『儲けるための話』ではなくて、『資本主義が持つ危険性』ですね。
ミヒャエル・エンデは、「お金が商品となり、お金がお金を生むことによってもたらされる社会の歪み」について、延々と問うていました。

彼が一貫して言っていたのは、
「お金を所有することを目的としてしまうと、経済が滞ってしまう」
ということ。

彼の思想の根底にあったのは、
「そもそも資本というのは、社会のためとか未来のために使われるべきじゃないか」
という考えでした。

ここで、そもそも論になるのですが、「そもそも、なぜ僕たち人間は、お金を『所有』したがるんだ」っていう問いがあります。

だって、お金は本来、物々交換の経済活動をスムーズにするために生まれたアイテムなのに、そのアイテムを『所有』する、つまり、誰にも渡さないことを目的としてしまうことで、経済活動が止まる。「これは、本末転倒ではないか」という話です。

例えるなら、
「コミュニケーションを取るために『言葉』が生まれたのに、人には『言葉』を使わないとしてしまう」
といった話で、そうなると、よくわからないじゃないですか。
『言葉』はやっぱり、人に対して使って、初めて意味があるんです。

一方で、「ある程度の価値がないと、媒介物として機能しない」という話も理解できます。

しかしここで問題なのは、「価値を持ちすぎてしまうのもどうなのだろう?」「価値を持ちすぎると、人はそのものを『所有』しちゃうぞ!」という点です。

そこで、ミヒャエル・エンデは、
「そもそも、なんでお金がこんなにも価値を持ってしまっているのか」
という問いに行き着くわけですが、ここからは、「彼がたどり着いた答えは何か」について話します。

『腐るお金』の実話

ドイツの経済学者で、シルビオ・ゲゼルというおじさんが居るのですが、彼は『自由地と自由貨幣による自然的経済秩序』という本を書いています。この本は少し難しいので、まず読むのであれば『シルビオゲゼル入門』という本が一番分かりやすいと思います。これはすごく面白いです。

そこで、シルビオ・ゲゼルが徹底して言っていることは、
「あらゆるものは、時間が経てば価値が下がるのに、お金だけは価値が下がらない。」
「リンゴであろうが、バナナであろうが、洋服であろうが、あらゆるものはどんどん時間系で腐っていくのに、お金だけは腐らない」
「そうすると、肉を持っている人よりも、魚を持っている人よりも、お金を持ってる人の方が、立場が強くなってしまう。」

なぜなら、お金を貸す時に金利を請求することができるからです。

これがお金がはらむ問題であると考えたシルビオ・ゲゼルは、『減価する貨幣』という、いわば「『腐るお金』を作るのはどうか?」という提案をします。

実は、この『腐るお金』は実際に使われたことがあり、1932年の世界恐慌の真っ只中に、オーストリアの『ヴェルグル』という町で、実証実験が行われました。この『腐るお金』というのは、一定期間で減価していくもの。確か『スタンプ貨幣』だったと思います。その『腐るお金』が、実際にその町の地域通貨として使われました。

そうすると、そのヴェルグルという町では、税の滞納が消えて税収が増えて、失業率が減ったんです。
なぜなら、お金は時間が経てば経つほど腐ってしまうので、みんなが積極的にお金を使うようになったからです。

その結果、町の経済がどんどん回りました。

そしてなんと、そのヴェルグルは、世界恐慌後に、完全雇用を果たしました。おそらく、世界恐慌後に完全雇用を達成した初めての自治体です。
要するに、『腐るお金』がむちゃくちゃうまくいったということです。

しかし、オーストリア政府は、このヴェルグルで生まれた『腐るお金』を廃止にしてしまいます。
理由としては、『シリング』という法定通貨(中央銀行で国が管理しているお金)への影響を恐れたからです。

その結果、せっかく町を盛り上げた『腐るお金』は廃止され、なくなってしまいました。

あともう1点、『腐るお金』のデメリットとしてあげられるのは、みんながどんどんお金を使うせいで、みんなが銀行にお金を預けなくなり、銀行が回らなくなってしまうということです。

だから、中央銀行からすると、『腐るお金』というのは都合が悪いんです。銀行というのは、人からお金を預けてもらわないと商売にならないわけですから。それゆえに、排除しようとする力が働いてしまうんですね。

『えんとつ町のプペル』のストーリーは、この話が下地になっています。

つまり、遠くの町で『腐るお金』っていうのを発明した人がいて、それでせっかく町は潤ったけれども、結局中央銀行に潰されてしまう。そのリベンジとして、「中央銀行の人達に見つからない土地を探せ!」ということで、4000メートルの岸壁に囲まれた大地を探し、そこに町をつくった。煙を炊いて空を塞いで、完全な密室空間をつくってしまって、そこで「『腐るお金』をもう一回復活させよう」と言ってできたのが、『えんとつ町』です。

これが、地域通貨を守る為に生まれた町の物語です。

というわけで、
「地域通貨を守る為に生まれた町の物語」
というテーマでお話させていただきました。

それでは、素敵な1日をお過ごしください。西野亮廣でした。


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