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「無料化」を拒むクリエイターが存在する理由 by キンコン西野

このnoteは2020年3月27日のvoicyの内容を文字起こししたものです。
voicyの提供:ビッグファイブさん

どうも。キングコングの西野亮廣です。

お笑い芸人をしたり、絵本作家をしたり、国内最大のオンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』の運営をしたりしております。

今日は、
「「無料化」を拒むクリエイターが存在する理由」
というテーマでお話します。

コロナでニーズがなくなったわけではない

まず、少し近況報告をさせていただきます。

今、世界中が新型コロナウイルスに悲鳴を上げていて、僕の周りの友達やサロンメンバーも例外ではありません。連日、社員やインターン生に手伝ってもらいながら対応に当たっているのですが、もちろんそれと同時に、自分たちのプロジェクトも進めなければいけないし、僕は、に中は主演舞台の稽古が入っています(※コロナウイルス感染拡大の影響を受けて中止)。

それなりにハードなのは間違いないのですが、その中で感じているのは「みんなが困っているときに、働き盛りでよかったなぁ」ということです。「僕はまだまだ頑張れる年頃だから」と、自分の中で納得しています。

今回のコロナウイルスの一件で、特に困っているのは実地店舗を構えてる方々で、サロンメンバーには、アメリカやヨーロッパの人たちも少なくありません。そんな彼らの応援を連日やらせてもらっています。

見誤ってはいけないのは、今はお客さんはいないけれども、ニーズがなくなったわけではないということです。つまり、今お店が回っていないのは、システムエラーではないということです。

だだ、「外に出られない」という理由があるから、お客さんが今いないだけであって、ニーズそのものがなくなったわけではありません。

なので、この12カ月を乗り切ることさえできればいいわけだから、よく言われるような「魚を与えるよりも魚の捕り方を教えろ」ではなく、シンプルに、「この一ヶ月二ヶ月分の魚を差し上げる」ことが出来ればいいと考えています。

今回に関しては、「焼け石に水じゃん」的な対策でも構わないということです。ここを見誤ってはいけません。

その上で、「じゃあ僕らには何ができるのか」ということを模索し、順次対応に当たらせていただいております。

ちなみに、一昨日は、ドイツのサロンメンバーの日本料理店を、昨日は、ニューヨークのサロンメンバーのお花屋さんの応援をさせていただきました。引き続き、4万2000人のサロンメンバーを片っ端からフォローしていきたいと思います(2020年3月時点の人数。6月時点は6万5000人)。

「無料公開」が明らかにしたもの

そして、話は全然変わって、
「『無料化』を拒むクリエイターが存在する理由」
というテーマでお話しさせていただきます。

3年か4年ほど前に、『えんとつ町のプペル』を全ページ「無料公開」しました。記憶がある方もいらっしゃるかもしれませんが、あの時、「そんなことをしたらクリエイターにお金が落ちなくなるじゃないか」という批判が、クリエイターサイドから起こったのです。

「そんなことしたらクリエイターにお金が落ちなくなって、クリエイターが食いっぱぐれる」と、結構な数の批判がありました。

そういった主張の根底にあったのは、「作品にお金を出すという文化を壊すな」ということです。言い換えると、「無料が当たり前になってしまったら、お客さんが作品にお金を出さなくなるじゃないか」ということです。

しかし、無料公開をした後、『えんとつ町のプペル』は売り上げを伸ばし続け、今では『えんとつ町のプペル』に関わるプロジェクトで、多くのクリエイターさんたちが収益を上げています。映画、VR 、 AR、個展、ミュージカルなど、無料公開をきっかけに、クリエイターさんにお金が落ち続けているわけです。

実は、もう出版業界では「無料公開」が広告戦略の選択肢の一つとなっていることは、皆さんも知るところでしょう。今回のコロナウイルスでも、各出版社が色々な作品を無料公開しました。

「家の中に人がいるのであれば、この間に自分たちの会社の作品を見てもらおう。そして、その後の売り上げにつなげよう」という「勝機」として見たということです。

このように、「無料公開」というのは広告戦略の一つになりました。
そこで、整理しなくてはいけないことは大きく2つです。

一つ目は、「無料公開」は一切のお金を受け取らないということではないということです。無料公開したことによって、多くの人に本を知ってもらい、ネットで読めるなら買わないという人も増えたけれども、反対に買って読みたいと考える人も増えました。

実際にカウントされるのは買う人なので、そこにお金が落ちたということです。

分母が大きければ、その分当然、分子も大きくなります。「5人に1人が買うのであれば、1000人に見せるよりも1000万人に見せた方が売り上げは上がるよね」という話です。加えて、多くの人に認知されたことによって、映画やミュージカルといった2次展開、3次展開が生まれ、そこでお金が落ちました。

つまるところ、「無料公開」はマネタイズのタイミングを後ろにずらしているだけなのです。

ミュージシャンがやっている、Youtube で音源をフル公開してライブで回収するというモデルは、まさにそれにあたります。

そして、整理しなくてはいけないポイントの二つ目です。
こちらが今日の結論です。

それは、「無料公開」はクリエイターの実力を丸裸にするということです。

これまで、クリエイターの作品は入り口でお金を取っていたので、「買ってみなければわからない」というある種のブラックボックスでした。

「買ってみたけどハズレだった」、「行ってみたけどハズレだった」という経験をされたことがある人は少なくないと思いますが、その際、ハズレの作品、ハズレのイベントを提供したクリエイターにはお金が落ちていたのです。

つまり、ブラックボックスにして内容をごまかすことによって、食えるクリエイターが一定数いるという話です。

しかし、「無料公開」が当たり前になると、その食い方はできなくなります。言い方を変えると、騙すことができなくなるということです。

例えば、音楽のアーティストは、 Youtube に楽曲をフル尺で流している米津玄師と実力を比べられるわけです。

つまり、実力が不足している人は食えなくなるということです。

なので、「無料公開したら、クリエイターにお金が落ちなくなるじゃないか」という批判は、半分正解で半分間違っています。

言い換えると、ブラックボックスにして実力をごまかすことができなくなるので、本物にはお金が落ちるし、偽物にはお金が落ちなくなる。

つまり、無料公開したら、食えるクリエイターは食えるし、食えないクリエイターは食えなくなるということです。

ここがばっくり分かれるわけです。

クリエイターの世界は、「全員手をつないで一緒にゴールしましょう」というゆとり的な世界ではありません。1%の成功者と99%の挫折者を生む完全実力社会で、そのことを承知でこの世界に飛び込んだのはクリエイター自身なので、「無料公開」によって、全員の実力が可視化されるのは、僕は大歓迎です。

少なくとも僕は、そういう世界に自分から飛び込んでいます。

クリエイターを目指した人全員が、クリエイターとして食えるわけではありません。それは、プロ野球選手を目指した人が、全員食えるわけではないのと同じことです。

ここは完全に実力社会なのです。
もう誤魔化しはききません。

つまるところ、クリエイターが無料公開を拒む理由は、自分の実力が丸裸にされることを恐れているからです。ただ、「無料公開」を批判したところで時代が止まらないし、結果止まらなかったですよね。そんなことをしたところで、自分の身を守ることにはつながらない。

もし君が今そっち側にいるのなら、批判することなんかに時間を割かず、とっとと強くなった方がいいと思います。自分や周りの人たちを守るには、一番の方法です。

もともと、「強いクリエイターしか生き残れない」という世界だったけれども、それがより一層加速してきました。僕は、結構これは正直な世界でいいなと思っています。

というわけで、
「「無料化」を拒むクリエイターが存在する理由」
というテーマでお話させていただきました。

それでは、素敵な1日をお過ごしください。西野亮廣でした。


※オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』では、毎日、議論&実験&作品制作&Webサービスの開発&美術館建設を進めています。
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