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情報を売るな by キンコン西野

このnoteは2020年2月6日のvoicyの内容を文字起こししたものです。
voicyの提供:早川 春子さん

どうも。キングコングの西野亮廣です。

お笑い芸人をしたり、絵本作家をしたり、国内最大のオンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』の運営をしたりしております。

今日は、
「情報を売るな」
 というテーマでお話したいと思います。


先日まで、舞台『えんとつ町のプペルTHE STAGE』が上演されていました。舞台を観にきてくれていたホリエモンやSHOWROOMの前田さんとも話したのですが、やはり『絵本の舞台』には、エンタメビジネスの可能性が詰まっています。

それは、「物販コーナーで売られている絵本の宣伝が、ステージ上で1時間半行われる」ということの異常性です。

1時間半のCMなんて、見たことがないじゃないですか。しかも、セットを組んで、役者さんがたくさん出て、音響照明など、ものすごい数のスタッフさんが参加している。さらにそこには、すごいお金が動いていて、たくさんの人が観に来ています。

すると、公演終わりに『グッズ』として絵本がめちゃくちゃ売れるんです。そして、そこで『グッズ』として買われた絵本が、舞台を再演する際の『集客装置』、つまり『チラシ』として機能します。

つまるところ、絵本が売れ続けて、舞台の集客がし続けられるという無限ループが生まれます。これはすごいことです。

今日は、その話をさらに広げて「情報を売るな」というテーマで、絵本マーケティングのお話をしたいと思います。

読み聞かせ動画削除の疑問点

今朝、ぼんやりツイッターのタイムラインを眺めていたら、ある人気ユーチューバーさんが、「絵本の読みきかせ動画が削除されました」というつぶやきをされていました。このユーチューバーさんは、「こういうことをすると、Youtubeから削除されますよ。気をつけてくださいね」とみんなのことを想ってツイートされたのだと思います。なので、今からお話しする内容は、このユーチューバーさんを否定している話ではないです。

僕が少し引っかかったのは、ユーチューバーさんに対してではなく、「動画が削除された」という事実に関してです。

もしこれが、YouTube のポリシーに違反しているという理由での削除であれば、「 YouTube を利用している以上、そのルールに従えよ」という話で、理解できます。しかし、どうやら今回の場合は、その絵本の出版社から著作権侵害の申し立てがあって削除されたということでした。

つまり、削除申請の出所が出版社なのです。この点に関しては、少し思うところがあります。

まず、その読み聞かせ動画の削除を申請した出版社側に立って、「なぜ、削除申請をしたのか」を考えてみます。

すると、おそらく考えられる理由は一つで、「YouTubeで無料で読まれてしまうと、絵本が売れないじゃないか!」という懸念です。僕はその動画を確認していないので勝手なことは言えませんが、そのユーチューバーさんは、絵本のネガキャンをされていたわけではなかったと思われます。お子さんなどに、ただ読み聞かせしていたものが、削除申請の対象になってしまったようです。

その上で、やはり出版社側の意図として考えられるのは、「無料で読まれてしまうと、絵本が売れなくなってしまう」ということです。

これに関して僕は、3年前に『えんとつ町のプペル』という作品を無料公開した時に、すでに結論を出したと思っているのですが、そもそも絵本を買うお母さんは、『あたり』か『ハズレ』かの博打で絵本は買いません。

この話はこれまで何度もしてきましたが、お母さんは『あたり』の確認が取れた絵本しか買わないのです。多くの場合は、自分自身が子どものころに読んでもらって面白かった絵本を、自分の子どもに買い与えます。もしくは時間があれば、本屋さんで立ち読みをして、最後まで読んで面白かったら買うという流れです。

絵本の購入理由として考えられるのは、おそらくその2つです。お母さんは、お金に余裕があるわけではないので、『あたり』の確認が取れたものしか買わないのは、当然の行動パターンでしょう。

そうなると、出版社が絵本を売るには、まずは面白いかどうかの確認をとってもらう必要があるわけです。つまり、ネタバレしてからがスタートです。

にも関わらず、「そこで読まれてしまうと、絵本が売れなくなるのでやめてください!」という結論は、的外れだと言えます。これは、絵本を買いたいお母さんに対して、「内容は買ってからのお楽しみ」という福袋的な博打を迫っているのと同じことです。

今はもう、1000円、1500円で楽しめる面白いコンテンツが溢れています。いわば、『あたり』のコンテンツだらけの時代です。そのような時代に、『ハズレ』の可能性が含まれている絵本をわざわざ誰が買うのでしょうか。

そして、この件については「まだそんなことを言っているの?」と思います。今はもう『読み物』としての絵本を売るのではなくて、舞台の『グッズ』としての絵本、『ギフト』としての絵本、そして『インテリア』として絵本といったように、少し意味をずらして売る必要があるのです。

そのために僕らは、「作品をどうやって作ればいいのか」、「どういう届け方をしたらいいか」という議論をしています。

にも関わらず、一部の出版社はいまだに「絵本の中身のチラ見せはいいけれど、全部見せはダメだ!売上が下がる!」と言っています。

絵本を「情報」として売らない

一昨日の配信で、「今は、本が売れなくなったのではなくて『情報』が売れなくなった」という話をしましたが、『出版不況』と言っても、売り上げがぐっと下がってしまっているのは、雑誌や文庫本などの「『情報』を売っているもの」です。

なぜなら、『情報』はもうインターネットで無料で手に入るからです。

つまり、今回の結論は、絵本を「買ってみてからのお楽しみ!」とするのは、絵本を「『情報』として売ってしまっている」ということです。しかし、やはり絵本も『情報』としての部分売ってはいけません。

「舞台の『グッズ』としての絵本」で売っているものは、『思い出』だし、「『ギフト』としての絵本」で売っているものは『あなたのことを考えた時間』だし、「『インテリア』としての絵本」で売っているものは、そのまま『インテリア』です。

そして、そこに書かれている絵やストーリーといった『情報』は無料として捉えておかなければいけません。そうしなければ、結果的に雑誌や文庫本の二の舞になってしまいます。つまり、絵本の価値は『情報』にはないということです。

「『情報』にはない」というのは、少し言い過ぎかもしれませんが、『情報』として売っている以上は、苦戦を強いられるということです。なので、別の理由で価値を作っていかなければなりません。

そう考えると、今回のように「 YouTube で読み聞かせやめてくれ」という異議申し立ては、全く本質的ではないことがわかります。

というわけで、
「情報を売るな」
というテーマでお話させていただきました。

それでは、素敵な1日をお過ごしください。西野亮廣でした。


※オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』では、毎日、議論&実験&作品制作&Webサービスの開発&美術館建設を進めています。
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