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『円安』のシワ寄せがモロに出ている現場の話【キンコン西野】

このnoteは2024年7月8日のvoicyの音源、『CHIMNEY TOWN 公式BLOG』の内容をもとに作成したものです。


 
 

日本で作ったものをアメリカで売る場合「円安」はメチャクチャお得

 
コマ撮り短編映画『ボトルジョージ』が、New York Asian Film Festival(2024年7月12日(金)午後2時15分から上映)と、JAPAN CUTS(2024年7月13日(土)午前11時から上映)という二つの映画祭からお呼ばれしたこともあり、ニューヨークに来ています。
 
ちなみに、7月24日(水)はLA Shorts International Film Festival(ロサンゼルス国際短編映画祭)でも『ボトルジョージ』の上映がありますので、ロサンゼルスにお住まいの方は是非是非ご参加ください。
 
さてさて。
 
「映画祭が決まったからといって、ニューヨークのスケジュールをそんなにサクッと合わせられるのかよ?暇かよ?」と思われている方もいらっしゃると思うのですが(まぁ、暇は暇なんですけど)、実はこの期間はミュージカル『えんとつ町のプペル』のブロードウェイ公演のミーティングでニューヨークにおりまして、たまたまそこに映画祭が重なった(すごくラッキーな)形です。
 
ミュージカルの方が先に決まっていたんです。
 
そんなこんなで今日はニューヨークからお届けしているわけですが、昨日のVoicy(日曜日のQ&A)でサラッと答えたのですが、その後、「いやいや、これは大事なことだぞ」と思ったので、あらためて丁寧に説明させてください。
 
ミュージカル制作において、今、僕が迫られている極めてハードな決断についてです。
 
ファミリーミュージカル『えんとつ町のプペル』はとても数奇な運命にありまして、知らない方の為にこれまでの経緯を駆け足でご説明させていただくと…もともとは2019年に企画が立ち上がったんです。
 
元・劇団四季で、今はNYで活躍されている小野功司さんが、オンラインサロンのコメント欄に「えんとつ町のプペルのミュージカルを作りたいです」とコメントして、全てはそこから始まりました。
 
そして、ここがポイントなのですが、色々と頑張って、オフブロードウェイの劇場も押さえて、ニューヨークで制作がスタートしたんです。
 
CHIMNEY TOWNはサポートとして入っていましたが、スタッフの多くはニューヨークの人間で、その中には「ユニオン(ブロードウェイの労働組合)」に所属しているメンバーもいます。
 
まぁ、そんなチーム編成で、せっせと作っていたのですが、そこでコロナがやってくるんですね。
 
ここでブロードウェイは、その長い歴史で初めて「全劇場が閉じる」「再開の目処、ナシ」という絶望的なロックダウンに見舞われまして、当然、オフブロードウェイの劇場でやろうとしていたファミリーミュージカル『えんとつ町のプペル』の企画もここで出鼻をくじかれてしまいます。
 
その後、「ブロードウェイの復活がいつになるか分からないので、それなら先に日本公演をやっちゃおう!」となりまして、そこから制作の重心を日本の方にグググッと移動させて、最終的には日本で作り上げられ、日本で初演の幕が上がりました。
 
で、日本公演の初演が内容的にも興行的にも成功を納めて、その後、ニューヨークに戻され、ブロードウェイ公演に向けて動いているのが今です。
 
そして、同時に、2025年の日本公演も進めている。
 
とにかくアメリカと日本を行ったり来たりしているわけですが、それなもんで「円安」がモロに関わってきて、日本で作ったものをアメリカで売るのはメチャクチャお得なんです。
 
ちょっとややこしいですが、ミュージカル『えんとつ町のプペル』は7割ぐらいは日本で作っているんです。
 
これを全てアメリカで作ろうと思ったら、メチャクチャお金がかかっちゃうんですね。
 
参考になるか分かりませんが、国が定めている「最低時給」は東京が1100円ぐらいで、ニューヨークが2300円ぐらいなので、単純に考えると倍以上の人件費がかかっちゃう。
 
「日本で作る」といっても、「資材を輸入しなきゃいけない」となったら、結局それは高くなっちゃうのですが、たとえば脚本を書いたり、演出プランを練るのは「資材」もヘッタクレもないので、言ってしまえば純国産で作ることができる。
 
これをアメリカで売ることができるのはメチャクチャお得なんです。
 
 

アメリカで作られた音楽を日本で使う場合「円安」はかなり痛い

 
その一方で、ミュージカル『えんとつ町のプペル』は3割ぐらいはアメリカで作っています。
 
そして、その中のいくつかは、アメリカのスタッフが権利を持っている。
 
イメージしやすいところでいうと、たとえば「音楽」とか。
 
アメリカで作られた音楽(アメリカのスタッフが権利を持っている音楽)を日本で使うとなった場合、当然、アメリカのルール(アメリカの金額感)で楽曲使用料をお支払いすることになるわけですが、これが「円安」だとかなり痛いんです。
 
今は1ドル160円を超えていますが、ミュージカルの制作をアメリカでバリバリスタートさせた頃(2019年の9月頃)は1ドル106円とかです。
 
1.5倍になってるんですね。
 
あの頃、1000万円で買えていたものが、今は1500万円しちゃう感じです。
 
で、今、僕に迫られている決断というのは、ファミリーミュージカル『えんとつ町のプペル』を日本で劇団四季さんのように未来永劫やっていく(超ロングラン公演をやっていく)ことを考えた時に、「このお金を払い続けるのか?」という問題です。
 
「このお金を払い続けた上で、運営は続けられるのか?」という問題です。
 
ぶっちゃけ「円安」じゃなかったら、そこまで問題じゃないんです。
 
日本のクリエイターに報酬を支払うのと何ら変わらないので。
 
最悪なシナリオとして、極端な話、この先、1ドルが200円になっちゃった場合、さすがに支払いきれなくなるんですね。
 
劇場でやる以上、売上は大きく変わるわけじゃないし、その売上の中から支払わなきゃいけないミュージカルの制作費というのは「楽曲使用料」だけじゃないので。
 
楽曲使用料がイタズラに膨らんでしまうと、「美術や照明のスケール、あるいはスタッフや出演者へのギャラを縮小せざるをえない」みたいなことが起きてしまって、製作総指揮としては、そこはなんとしてでも回避しなきゃいけない。
 
なので、先々、円安が進んで「もう払いきれないっす。自分達で作ります」となるぐらいなら、今のうちから自分達で作っておいた方がイイ…という考えもあって、今、この判断に迫られています。
 
これ、くれぐれも言っておきますが、「楽曲がダメ」とかそういう話ではなくて(楽曲は最高です)、「円安」と「ユニオン(ブロードウェイの労働組合)のルール」に日本が耐えきれなくなってきている…という話です。
 
もっとも、どういう判断をするにせよ、2025年は最高の舞台をお届けするので、おおいに期待しておいてください。
 
 

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