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新型コロナウイルスで「吉本興業」がヤバイbyキンコン西野

このnoteは2020年5月19日のvoicyの内容を文字起こししたものです。
voicyの提供:吉田 貴志 さん

どうも。キングコングの西野亮廣です。

お笑い芸人をしたり、絵本作家をしたり、国内最大のオンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』の運営をしたりしております。

今日はですね、
「新型コロナウイルスで『吉本興業』がヤバイ」
というテーマでお話したいと思います。

劇場は瀕死状態。だけど…

ヤバイっていうのは、プラスの意味でのヤバイ、「すげー」っていうことですね。

時事ネタを切ることに関してはまるで興味がないんですけれども、文化の潮目が変わった瞬間を切り取ってお伝えすることには意味があると思っていています。

吉本興業が今回、芸能事務所として無双状態に入ったなーっていうのがありまして今日はその話です。

コロナが追い風になった感があるんですけど、今、芸人がみんなYoutubeを始めたじゃないですか。始めざるを得なくなったっていう表現が適切なのかもしれないですけど。

吉本興業も、芸人がYoutubeをやることに関してはどうぞどうぞなんですね。

その代わり、Youtubeの売り上げは吉本と分け分けなんです。

何対何に分けているかに関しては差し控えさせていただきますが、事務所よりも芸人の取り分のほうが多い、ということだけお伝えしておきます。

でも、よくよく考えたら「Youtubeの売り上げを事務所と分けるって何?」って話じゃないですか。

だって、Youtubeチャンネルを吉本が宣伝してるわけじゃないんですよ。

芸人が自分でチャンネルを立ち上げて、自分で宣伝をして、その売り上げの何割かを吉本興業に納めている。

「だけどまぁ、この割合ならいいか」といった感じで芸人みんな納得しちゃってるんですね。

これよくよく考えると、異常事態ですよ。
持ち家の家賃を払ってる、みたいな状態ですね。

でも、そもそも吉本が劇場を作ってくれなかったら今がなかったわけだし、
みたいな所でみんな納得しちゃってる。

そこで納得させてるのがすげーなと思って。

吉本芸人は6000人いると言われているんですが、この調子で全員がYoutubeをやってみたら、その時に発生する吉本興業の不労所得、大変なことですよ。

僕が競合の芸能事務所なら、ちょっとぞっとするレベルですね。
やっぱり数がすげーっていう、人数ですね。

それのプラットフォームになっているところって強いっていうのが一つ目のお話ですね。

それに加えて、強いと思うのがクラウドファンディングですね。

吉本興業が『シルクハット』っていう自社のクラウドファンディングのプラットフォームをもっていて、これも前からあったんですよ。

でも芸人とか、芸人ファンはこれまでクラウドファンディングに対してはちょっと懐疑的だったんですね。

冗談半分ではありますが、残り半分は結構本気で「クラウドファンディングって、新手の宗教でしょう?キャハハ」とか言ってたんで。

ところが、今回の新型コロナウイルスの影響で、芸人がみんなクラウドファンディングを始めた。

これもやっぱり「始めざるを得なくなった」っていう表現が正しいのかもしれないですね。

吉本興業やってるクラウドファンディングのプラットフォーム『シルクハット』はですね、一般の方もプロジェクトを立ち上げることができるので、一般の方も使われているんですけども、一般の方がやっているものはちょっと省いてですね。

吉本芸人のプロジェクトだけにスポットを当てて、5月19日までの段階の売り上げをちょっと計算してみたんですけど、ざっくり4000万円ですね。

この4000万円に関しては、数字で判断するのではなくて内容を見た方がいいなと思っていて。

例えば、ジャルジャルが『新型コロナウイルスの影響により中止になったコントライブを映像作品として発表したい』というクラウドファンディングをやっていて、これは延べ1442人の方に支援されて、68018,000円が集まっているんですね。

リターンは『配信で3日間映像観れる券』と『DVD&エンドクレジットの名前表記』の2つですね。

この2つのリターンだけで、これだけの支援を集めているジャルジャルが素晴らしすぎるんですけども、支援が集まっていたのは主に2つのリターンの後者のほう、DVDのほうですね。

DVDを買われてる方が結構いて、1400人近くいると。

ちなみにですね、これまで吉本興業の暗黙のルールと言いますか、なんとなくみんなの感覚値として「DVDは3000枚売らないとペイできない」っていうのがあったんですよ。

なので、それくらいか、それ以上の売り上げが見込めるものしかDVD化されなかった単独ライブはDVD化されなかったんですよ。

今回、ジャルジャルのDVDのクラファンの支援者は1442人じゃないですか。数合わないですよね。

これまでのルールで言うとDVD出せないはずなんですよ。
「おや?」と思いませんか。

DVDの制作費って主に撮影費用とパッケージ費用ですね。

パッケージ費用というのは、そのDVDのパッケージをデザインしたりとか、そもそもその枚数を刷ったりするのにかかるお金ですね。

単独ライブの撮影費用っていうのは、セット費とか衣装費とか照明費、音響費みたいなものは劇場のチケットの売り上げから出ているんで、撮影に必要な予算としてはカメラと音声と編集代ぐらいですね。

意外と抑えられるんですよ。

3000枚売ってペイって、1枚3000円で売ったとして、かける3000枚ですから900万円ですかね。

ってことは、撮影にそんなお金がかからないということは、パッケージ代がめちゃくちゃかかるんだと思うじゃないですか。

DVDを刷るのにお金がかかるんだと。

3000枚刷るとなると、ざっと600万円とか700万円くらいかかっちゃうのかなぁって思うじゃないですか。そうじゃないと、計算合わないですよね。

で、ちなみにDVDを3000枚刷るのにいくらかかるか知ってますか?

僕は昔、DVDを3000枚刷るのにかかる費用について工場に直接電話して聞いたんですよ。

この答え、27万円でした。

27万円?700万円くらいかかるんじゃないの?
かからないんですよ。27万円ですよ。

じゃあ何にお金かかってるかというと、答えは流通です。

作ったDVDをお客さんの元に届けるまでの間に、たくさんの期間たくさんの人が介在していて、そこにいちいちお金が落ちてるんですね。

でも考えてみてください。

「あー今日はお笑い芸人の単独ライブのDVDを買いに行こうかな」と思って家出たことってありますか?

ないですよね。

お笑い芸人の単独ライブのDVDを買う人って超超超コアファンで、その人はジャルジャルのDVDを買おうとか、もう決めうちなんですね。

Amazonで検索するときに、『お笑い芸人DVD』で検索するのではなくて『ジャルジャル』で検索するんですね。

つまり、ジャルジャルファンはジャルジャルのDVDを手に入れる時、ジャルジャルのDVD売り場にダイレクトで飛んでると。

にもかかわらず、ジャルジャルサイドは流通に多額のお金を払っていて単独ライブのDVDは3000枚売れないとペイできないから、3000枚売れる見込みが取れないと世に出せないとこれまで諦めてしまっていた。

ここで今回、ジャルジャルおよびジャルジャルファン、もっと言うと劇場に足繁く通っているお笑い芸人ファンは、ようやく気付くと思います。

「DVDって流通に乗せなくてよくね?クラウドファンディングのリターンで出せばよくね?」ですね。

そうなんですよ。単独ライブのDVDのようなコアファン向けの商品は手売りでいいんですよ。

手売りにしてしまえば芸人の身入りも増えるし、ファンは余計な機関にお金を払わずに応援している人にお金を払うことができる。

これDVDに限らず、単独ライブのグッズとかも全部そうですね。クラファンのリターンで出せばいいんですよ。

クラファンのリターンで出せば、事前に必要な数も分かるから在庫が余ることもない。

今回のジャルジャルの運動っていうのは、今後の芸人の活動の試金石になることは明らかで、芸人が単独ライブをする時は、クラウドファンディングを絡めるようになると思います。

そのクラウドファンディングのプラットフォームを作ってるのは、吉本興業です。

つまり、吉本興業に手数料が10%くらい入るんで、芸能事務所としては無双状態ですね。

吉本興業は劇場を持つ会社なんで、新型コロナウイルスで受けた打撃は大きいんです。客席をパンパンに埋めるというのは当面難しいでしょうし、その間も固定費はかかる。

ですが、これによって吉本芸人のYoutuberが増えて、吉本芸人の中にクラウドファンディング文化が根付いたこともかなり大きくて、長期的に見ると回収できる勝負だと思っております。

ここからの吉本興業の動きはちょっと注目です。面白くなると思います。

というわけで、
「新型コロナウイルスで『吉本興業』がヤバイ」
というテーマでお話させていただきました。

それでは、素敵な1日をお過ごしください。西野亮廣でした。


※オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』では、毎日、議論&実験&作品制作&Webサービスの開発&美術館建設を進めています。
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