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転居

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2023年4月の記事一覧

転居6

 スターバックスのケーキやドーナツはケーキやドーナツ自身に対する軽口を寄せ付けない閉じた顔をして、規定通りの味を規定通りに受け取るように強制する迫力がある。そういった力強さを、感じるために訪れることができる。利用するトイレは、ビルのトイレで、二つ個室があり洗面器も二つある、手を洗うときに、二つの洗面台の間の白いガラスの台の上に、二つの黒点があり、一つは何らかの植物の枯れた蕾のようなもので、もう一つ

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転居5

 小川で目にする鷺は、羽が灰色のものが多いが、真白のものがいたので、少し立ち止まってみた、少しというのは、アルがそのまま止まらずに四歩歩くくらいの間だ、そうすると鷺の水に浸かった足元を見ることができて、細い脚の二本の、指のように三又に分かれる部分から先が、黄色であり、意外だった。黒色であるはずだった。このように形の違うものを、人間の足と同じように、足と呼ぶことになっている、水に浸かって、冷えて見え

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転居4

 気温の変化のために、およそ一年ぶりに着ることになる下着を広げて、少し時化たように感じたが、続く体の動きは変わらなかった。新しい部屋に住み始めて数日間のうちは、構造が掴めずに、体の端々をぶつけた。額に血を滲ませたこともあったが、二日前出窓に豆苗を置いた。この棟のすぐ脇の道路は、大きいトラックが通ることが多く、その度に地面が振動することを、最初はうんざりしてくるのではないかと案じたが、そんなことはな

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転居3

 新幹線の内側から、富士山が見えなくなるまでを見ていて、この列島で一番高い山であるということを考えてみた、そもそも列島ということも、よくわからないが、一番高い山であるという命題は、なんとなく胃の周辺の液体やらを、遠赤外線で温めるようで、そのあと疲れた。アルは大抵、いま温められた辺りで、指を組み合わせながら歩いた。本屋で本棚の前に立っているときからそうなっていた。作業着を着て、なにか目的がありそうに

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転居2

 傘を差している人と、差していない人が、同時に歩道を歩いているとき、アルは傘を差している人の肩を持つことになるだろう、肩を持つというのは、意味の無い、音符です。新宿のコメダ珈琲を、たとえば体育館くらいの広さにするとか、高層ビルを建ててそのテナントをすべてコメダ珈琲にするとかしたら、人は、なんか、引くな、とか思ったりするだろうか。広、とか、大きいね、とかを、久しぶり、に一言付け加えて、甘味そのままで

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転居1

 小さすぎる犬が大きすぎるアスファルトに立つ。魂に対して小さすぎるあばら。三度Google mapsを見ながら歩いてようやく覚えた駅までの道、二回曲がるだけだ、小川がある、まだ五回くらいしか横を通っていないがそのうちの四回は同じ場所に鯉が集合している、あとの一回は泳いで移動しているところを見た、犬は人に連れられている、一見して弱々しく到底生き延びられる感じがない、その中に生命があるという、生命の大

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