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詩集:”初秋”

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2005~2009(葉擦れの地5)
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2021年8月の記事一覧

詩) 駅

   駅 ここで降りる するするとホームに到着する電車の音 そこから降りてくる人々のラン…

渕 言址
2年前
7

詩) マリア

   マリア 夏の訪れを予感させる雲と海風が あなたが握りつぶそうとしている思い出を再び…

渕 言址
2年前
4

詩) 佳日の散歩

   佳日の散歩 冷たい風が木々の葉を大きく揺らし 眩しく輝く陽射しをあちこちに乱反射さ…

渕 言址
2年前
3

詩) 初夏

   初夏 生(せい)のなまなましい手触りは薄れているのに その重量だけが僕を包んでいるの…

渕 言址
2年前
3

稜線

   稜線 不器用であるという、たったそれだけで 祈りさえ許さぬ嘲笑の視線が交錯する中か…

渕 言址
2年前
3

詩) 早春

   早春   疲労の中にめり込んでゆく 細い枝々が ゆうらり、と また、ゆうらり、と交叉す…

渕 言址
2年前
5

詩) 夕餉の支度前

   夕餉の支度前 これまでに何を暮らしてきたか――― そんなことを想いながら たっぷりクリームの混じった春の陽の差し込む居間で ガラス窓越しに見える雲を独り眺めている いちにち、いちにち、というものは 鮮やかになったり 色褪せ、薄れたり 常に移ろい変化していくもの 私には幸福というものなど必要ではない ましてや、いつもいつもはしゃいでいたら いつもいつもはしゃいでいなければならなくなる ただ、時おり喜べるような出来事があったらいい 戸棚の中にあるコップやお皿は眠って

詩) 名宛人

   名宛人 その昼の波のざわめきは どろりとして まどろむような まるでうわ言のような響…

渕 言址
2年前
5

詩) 春

   春 生温かい南風にふくらんでゆく 幾重にも畳まれた花びらが目を覚まし 抑圧された患…

渕 言址
2年前
3

詩) Works

   Works 育て上げた彼女を見つめながら 生温かい陽光の はるかな遠さ 空しさの 肌触り …

渕 言址
2年前
6

詩) 暮らし

   暮らし からからと笑う――― その自分の顔やら しゃれた骨董の家具やらを映す つるつ…

渕 言址
2年前
6

詩) 舵

   舵 現在を詠うことを 僕は恐れていたのかもしれない 刻々と移動する客船の中を世界と呼…

渕 言址
2年前
6

詩) 悲歌

   悲歌 テトラポッドの間から打ち寄せる波 お前の苦悶の心臓 じっと耐え、 慄(おのの)く…

渕 言址
2年前
8

詩) 徒歩

   徒歩 とりわけて晴れの日が少ない、というわけではない とりわけて心躍る時が少ない、というわけではない * 朝露に濡れた板道を森へ森へと歩いて 私は自らの生命を分け与えることを想っている 寂とした、凛とした、朝の影の色、その濃さ 平坦な草原から谷間の奥へと続く小径(こみち) ああ、蜜を求めて群がる蜂たちは どこからともなく季節を呼び寄せてくる    かつて、生命の価値を明度によってのみ測り    利益や効率のみを知恵に追求させていた―――    そして、その挙