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口伝の海 木々の間をジグザグに 右手で幹を触れ 次には左手で幹を触れ 飛び跳ねるよう…
鉄路 あうあ ありいある(走り出す) えんゆうう(電柱) あやる(曲がる) まあ(また)、…
道を歩く アスファルトの亀裂が続いている それを境界にした片勾配 空までが傾いている…
オール ひた、ひた、と ボートを漕ぐ ああ、ひとりであることの 同時にひとりではない…
傾いたページ 斜めに傾いたままの その本のページを眺めている 文字で書き記された海…
雪夜 漆黒の暗闇を降りしきる雪の その軽々とした睡(うま)いのゆるやかさ 結晶の格子の…
海沿いの小径(こみち) かつては主要な街道であったその道は 今では歩く人もないが あふれるばかりの優しい陽光が沁み込み 歩みを進める私たちを、昔のように包んでくれている その海沿いの湾曲した道は 私の原風景に通じているのだった あなたを背負ってでも 私はそこへ歩いて行く あなたは菱形のぼやけた紋章を見つめている 光の分散し、虚空に投影された紋章を その紋章こそ、打ち棄てられ、野晒しにされた詩人の墓所の在処(ありか)を 証言するただひとり残された者であることを
帰還 既に郷愁の飛び去った、わたし、へと 私は帰るのだ 乾いた音をソロで奏でる 針葉…
岬 その岬を取り巻く海は、空を映している 模様でもなく、色彩でもない空を おお、互い…
絵画 けたたましく鳴き叫ぶ白い鳥は見下ろしている 岸壁に座り込み、漁網を繕う麦藁帽…
風吹く空 いつまで風は吹くのだろう この街はいつまで在るのだろう 静かに慄える涅槃…
朝の車内 海がある 家がある 線路が左へ折れる 朝の陽射しが後ろへとそれてゆく 海が…
都市の夜 強風に吹き飛ばされ また 氷に閉じ込められ この荒野は乾ききっている 反射…
流砂 風に吹き溜められた砂が 斜面を流れてゆく 一様に薄く均一に流れるのではなく 一筋の線を流れ 流れながら渓(たに)をつくる 吸い込まれるような無音のくぼみの中に 空を流れる雲を見上げる――― 滲むように白く 水の中に噴出された粘質な白濁液のように 触手のように拡散する雲を 僕は認識というものを 底知れぬ海の深さを 自分を大気と化すことを 陽光として溶けてしまうことを 想っている あらゆる「表示」が消えてしまえばいい あらゆる「標識」が消えてしまえばいい く