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影を突き進む「アンチヒーロー」とほのかな光を確かめる「アンメット」

2024春ドラマお疲れ様でした!前回、第1話を見た感想を書きましたが、そこから何本か離脱し、15本のドラマを完走いたしました。その中から今期印象に残った2本のドラマについて感想です。内容に触れるので見ていない方はご注意ください!

「アンチヒーロー」

正義とは、悪とは、を問いかけるオリジナル脚本のリーガルエンターテインメント。殺人犯をも無罪にしてしまう型破りな弁護士を長谷川博己が演じる。かなりダークで危険な人物として映るが、徐々に人物像や背後にある目的が見えてくる。法律や警察監修も入っているが、あくまでもフィクションでありエンタメとして楽しませる作りと、日本の司法や権力構造への強い問題提起としての側面と。そのバランス感覚がとても好きでした。
これぞ日曜劇場!といった演出も多く、長谷川博己と野村萬斎の演技合戦は非常に楽しませてもらいましたし、長谷川博己の息継ぎなしの超長台詞も堪能させていただきました。これらに関してはまじで感謝です。見たいものを見せてくれてありがとうございました。
さて、長谷川博己演じる弁護士ですが、彼の中には確固たる正義がある。それを人に押し付けることは決してしないが、利用できるものは全て利用する。貪欲に冷徹に。しかし大事な何かを失った故につき進んでいるわけではなく、彼の人間性に対するこちら側の信頼を勝ち取りつつ、随所に愛を散りばめながら進んでいくのが最高なわけです。大事なことなので言っておきますが、彼の隣にはいつも、ゴールデンレトリバーのミルがいます。ああ嬉しい。
そして彼の正義とは何なのか。死刑制度最大の欠陥。冤罪で死刑執行してしまったら。疑わしきは罰せずと言いますが、真犯人を逃そうとも、無実の罪を背負わされる人を生んではいけない。人が人を裁くことの危うさ。ドラマではうまいこと伏線を回収し、怒涛の追い込みをかける長谷川博己と仲間たちがいましたが、現実はそんなことはきっとなく。現在も進んでいる同様の問題に関しても思いを馳せました。死刑制度の是非や廃止に関してはもっと議論が活発になってもいいのにな、と思っています。
兎にも角にもオリジナル脚本で面白いドラマを見られると嬉しいです。日本のテレビドラマももっと面白く、質を高めて、切磋琢磨していけると思うので頑張ってほしいです。

「アンメット-ある脳外科医の日記-」

事故によって過去2年間の記憶を失くし、1日しか記憶が持たなくなってしまった脳外科医・ミヤビを杉咲花が演じています。民放ドラマでは滅多に拝めない若葉竜也がキーパーソンの脳外科医として登場する点でも注目を集めたドラマでした。
このドラマをリアルタイムで見られて本当に良かったなと思います。内容が素晴らしいのはもちろんですが、制作側の誠実な態度に何度も胸が熱くなりました。二次創作に関してはさまざまな問題が解決しないまま横たわっています。この「アンメット」も原作がある二次創作としてのドラマですが、原作者の意図を汲み取り、尊重しようとする姿勢が見えて安心しました。この安心感も大変自分勝手な感情なのですが、見えるところでしっかり発信してくれる姿勢を信じずにはいられませんでした。原作者への、共に働くお互いへのリスペクトが見える座組が本当に素敵だなと思います。
インタビュー記事をいくつか読んだ程度ですが、テクニカル面での緻密な作りこみにも感動しました。光と影の演出もそうですが、些細で自然に見えるものが、確かな道筋を経て完成された瞬間であることが嬉しくなります。5話の千葉雄大の演技や、9話のラスト長回しのシーンなど、準備なしには得られない化学反応みたいな奇跡みたいな瞬間がたくさんあったんじゃないかと想像します。
わたしはいろんなことを忘れがちで、記憶なんて頼りにならないと常日頃思っておりますが、1日しか記憶がもたないミヤビの日々を見て、記憶が今の自分を積み上げてきたんだなとか思ったりしました。自信も安心も記憶が作っている。それは瞬間の蓄積の結果。途方もないことで、煩わしくも思える全ての瞬間が積み重なり、先へ先へと繋がっていく。しかし本当にそれだけなのですか?脳だけ取り出されて宇宙へ飛び立ったウィル(三体の話です)は、本当にかつてのウィルなのでしょうか。強い感情は忘れないと三瓶先生(若葉竜也)は言っていて、それは希望的な話にも聞こえるけど、ちょっと怖くもあったりする。わたしはわたしから逃れられない。ミヤビは昨日も今日も変わらずにミヤビでいる。でもそれこそが、ミヤビがミヤビであることが、救いなのだなとも思う。そうして集まる周りの人たちが、それぞれにそれぞれの小さな光として発光しているような関係に見えました。全体的に尊いです。
あと単純に誰も声を張り上げないのが好きでした。ささやくような小さな声もしっかり拾う録音部の技術。「七人の侍」もこの音で見たい。言葉が少ないのに大事な言葉しかないドラマ。野呂佳代と千葉雄大と岡山天音のいる職場が一番いい職場!


最後に。「アンチヒーロー」も「アンメット」も主題歌が最高なのと、主題歌がかかるタイミングが最高で最高でした!主題歌かかるタイミングがバチっと決まるドラマはいいドラマ。
夏ドラマも楽しみましょ~~~~



いほり

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