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「あの本は読まれているか」女の人生。大国はすごいね。

ラーラ・プレスコット作「あの本は読まれているか」(吉澤康子訳)を読んだ。

あらすじは東京創元社のサイトから↓

冷戦下のアメリカ。ロシア移民の娘であるイリーナは、CIAにタイピストとして雇われるが、実はスパイの才能を見こまれており、訓練を受けてある特殊作戦に抜擢される。その作戦の目的は、反体制的だと見なされ、共産圏で禁書となっているボリス・パステルナークの小説『ドクトル・ジバゴ』をソ連国民の手に渡し、言論統制や検閲で迫害をおこなっているソ連の現状を知らしめることだった。

「あの本は読まれているか」このタイトルがいい。手に取ったきっかけはこのタイトル。スパイが発禁本を広める。こんなにワクワクするテーマは他にない。私も女スパイになりたい人生だった。今からだって遅くはないはず。専業主婦が女スパイ。まぁ、スパイになりたいとブログに書いちゃうような奴はスパイにはなれません。

原題は”The Secrets We Kept”

この小説、あらすじを読んで手に汗握るスパイ小説、発禁本を流通させるための頭脳戦、を期待して読んだら、いい意味で裏切られた。

CIAで働く女たちと、ロシアの詩人パステルナークを愛する女の、人生を描いた物語なのだ。今だっていつだって、日本でも海外だって女の人生は男に振り回されている。男たちが始めた戦争でスパイになって、出世するのはみんな男で、雇うのもクビを言い渡すのも男。パステルナークは逮捕されずに愛人は逮捕され強制収容所に入れられる。

女は秘密を守れるのにね。

自分の役割を全うしたがために、ずっと陽の目をみなかった彼女たちの人生を思った。


この本が執筆されて出版に至った経緯が興味深い。ラーラ・プレスコットはこれがデビュー作。大学の創作奨学金をもらって3年かけて書いて、出版権のオークションで200万ドル(約2億)の値が付いたそう。大学で小説執筆の奨学金が出ることもすごいし無名作家のデビュー作に2億!素晴らしい創作物への敬意とスケールが桁違い。(こういう夢のあるエピソード自体が米国のプロバガンダっぽくてこの小説に合ってるなあ笑。小説の中のロシアは散々だったしね。)


そしてなにより記録記録記録。記録こそが未来への財産。CIAが残した記録のおかげでこの物語が生まれた。記録をないがしろにしたらいけない。記録は誰かの人生。


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この本に出てくるパステルナークの「ドクトル・ジバゴ」。発売当時は世界的ベストセラーになってノーベル文学賞も受賞した作品。興味が出て図書館でかりようと思ったら、なんと我が自治体には蔵書が無いのです。世界的名作なのに!? ちらっと立ち読みでも...と思って本屋を何件か探しても置いてない。残念ながら2020年のJapanの自治体Xで、あの本は読まれていません。(読んでみたいけど8千円とお高いのでなかなか手が出ません。悲しい)


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