新緑

2019年5月 自選短歌

雑踏に紛れるきみを焼き付けるコートの襟を立てた角度も

香水をこぼしてしまう星のない夜の裏までしみる白檀

顔も見ず「ごめん」と言った次の日の縦列駐車がうまくいかない

顔を見ることができずにTシャツの英文をもう五周している

あいしてる 右に同じと省かれて開かない窓をすべる雨粒

遅延した電車の中で顔よりも耳のかたちを記憶している

はつなつの空気だけ乗せ揺れるバス 区役所前を通過してゆく

記憶には煙突のあるあおぞらが残ったままの銭湯跡地

履歴書を書きつつ思うドラクエは祈れば転職できるんだよな

何回も自然に笑うへたくそな海の写真が増える江ノ電

※うたの日、あみもの短歌、角川『短歌』掲載歌より

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