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【感想】舞台 『噂の男』ネタバレあり

※ネタバレ注意
押し入れを整理していて久しぶりに発掘してしまい、ついそのまま観てしまったので、改めて書き記したいと思います。

【あらすじ】
大阪のとある演劇場の舞台袖、地下にある『ボイラー室』横の溜まり場。そこを訪れる芸人たちと彼らをとりまく人々。5人の男と1人の女、そして1人の幽霊が集まって、やがて露呈するそれぞれの思惑。過去と現在を行き来しながら、物語は意外な方向へ展開していく。最後に体験するのは、笑か、涙か、戦略か?予測不可能なサスペンス・コメディ。

PARCO STAGEより

【登場人物】
鈴木光明:堺雅人
宝田興業のエリート社員。宝田グランド劇場支配人。

モッシャン:橋本じゅん
宝田興業所属の漫才コンビ“パンストキッチン”のツッコミだったが、相方のアキラに先立たれ、今は酒びたりの日々。

加藤信夫:八島智人
ボイラー室の整備のためにやって来た、ボイラー技師。

ボンちゃん:山内圭哉
宝田興業所属の売り出し中ピン芸人。

アキラ:橋本さとし
“パンストキッチン”のボケで、モッシャンの相方。12年前に他界。

骨なしポテト(トシ&アヤメ)
宝田興業所属の中堅夫婦お笑いコンビ。

PARCO STAGEより

お話自体は、ブラックユーモアサスペンス、後半はちょっとグロ。
登場人物の全員が全員、誰かを恨んでいたり嫉妬していたり、一見優しそうな人に見えても実はそうじゃない。どこにでもいる人間の嫌な部分を表現した内容で、ブラック過ぎて観る人を選ぶ作品です。私は大好き!

ボンちゃんや骨なしポテトのふたり、そしてモッシャンは登場した時から本当に嫌な人で、でも私が過去に出会った人間の中にも少なからず似たような人いたなぁ……て思わせてくれるような、絶妙に嫌な人たちだった。
そして、一見すると優しそうなアキラは、自分を慕ってくれている人間の大切なペットを陰ながら殺す最低野郎だったし、全く無関係だと思われていたボイラー技士も実は関係者で、無害そうに見えて全然そうじゃなかった。

そしてこの舞台で一番恐ろしいと思ったのは、前半パワハラを受けながらも終始笑顔だった鈴木こと堺雅人だった……。


これ、2006年の作品か……。
もともと堺雅人さんが出演されていた作品は何本も観てきたけど、堺雅人という役者を意識して観たことってなくて、大体脇役とかチョイ役で出てるのを見かける程度だったのが、この舞台で度肝を抜かれたんですよね。
物語の場面が現在12年前を交互に切り替わるけれど、舞台のセットはそのままなので、同じ場所だけど時代が違うという設定。

現在の鈴木は出世して劇場の総支配人。けれども12年前はパンストキッチンのマネージャーをやっていた新人で、要領も悪く何を言われても「ハイ!」って笑顔で返事するヘタレ。
そして、この新人時代にモッシャンから受けたイジメが本当に壮絶で、命令されたことには一切逆らわないし、逆らえない。今でいうパワハラ。
命令だからと自ら笑顔で両手首を縛られ、その状態で踊らされ、頭に熱い照明を乗せられ、乳首を晒されズボンを脱がされるだけでなく下着まで手に掛けられて写真を撮られそうになり、最後は煙草の火を押し付けられる始末。モッシャンの相方アキラに庇われても「僕は大丈夫ですから!」と何をされても笑顔。
※余談ですが…ここ、堺さん本人が「生ぬるい」と何度もダメ出しをし続けた結果の壮絶なシーンだったという。確かにエグいシーンだったけど流石にちょっと振り切り過ぎだって……!(でもそこが好き)

それ以外でも、マネージャーを辞める以前に自殺してもおかしくないようなレベルのイジメを受け、飼っていたハムスターまでモッシャンに殺されたのに(真犯人はアキラ)、それでも辞めずに出世したの偉いなぁ……って思ったら、辞めなかったのは実は鈴木は同性愛者で、アキラのことが好きだったから離れたくなかっただけなんですよね……。
結局その後すぐにボイラー室での事故でアキラは他界しちゃうけど、鈴木にはアキラの亡霊が見えてて変わらず愛してるし、アキラに言われたことは守っちゃう。まぁでも欲望には忠実なのか、ボンちゃんと浮気してたのは笑ったw
でも、アキラ本人に「お前ホモやろ」ってバレて振られてたのはちょっと可哀想だった。同情しちゃうぐらい全否定食らってて、けれど何も言い返さず、呆気にとられるような表情ながらでもどこか悲しそうにしてたのが、すごく印象的でした。

アキラの死から12年後。すっかり出世した鈴木は、相方に先立たれたことで廃人になってしまったモッシャンをAV出演させたりでしっかり復讐してるし、ボンちゃんに自分の前で服を脱ぐよう強要してて、かなり真っ黒になってた。新人時代はあんなに爽やかだったのに……でも、これが彼の本性なんだなって思ったら背筋が凍ってしまうぐらい、本当にすごい二面性の演技でした。

そして……クライマックス
12年前、ボイラー事故は確かに起きていたけれど、事故直後アキラはまだ生きていた。すぐに救急車を呼べば助かっていたかも知れなかった。
しかし、第一発見者の骨なしポテト嫁がアキラへの色仕掛け失敗の恨みからトドメを刺し、夫と共に自分たちがいた痕跡を消し去ったために、普通の事故死で処理されたのが死の真相だった。

そんなアキラの死から12年後。様々な思惑が重なって今度は人為的にボイラー事故が起き、そこから転がり落ちるように物語がどんどん悪い方へと進んでいく。

12年前の事故当時、アキラを手にかけた証拠を消し去った骨なしポテト夫妻の夫が今回の事故の被害者だった。
当時のアキラと同じように、這いずりながらボイラー室から出てきた彼は死に際、「(自分がこうなってしまったのは)アキラ師匠が怒ってんねん」と口走ったことで、どうして突然アキラの名前が出るのかと驚いた鈴木が目を剥いて詰問する。救急車を呼ぶこともそっちのけで。
妻に冷たく当たってきたことを詫びようとする夫の言葉を遮る鈴木に、嫁が堪らず「今はいいのよ!あんな男どうだって!」と叫ぶが、それは触れてはならない鈴木の逆鱗だった。
「あんな男ってなんだ!」骨なしポテト嫁の髪の毛を掴み上げた時の鈴木もとい堺さんの怒りの表情が凄かった。けれど嫁の方も夫の死に際に立ち会いたくて「ハムスター殺して喜んでる男よ!」と振り切る。
自分のハムスターを殺した相手が、12年以上も片思いし続けた人間だと信じられず、呆気にとられていた鈴木の表情から笑顔も怒りも消えて無表情になるんですけど、正直ここが一番怖かった。
鈴木からすれば、大好きな彼を侮辱された訳だけど、嫁は嘘ついてないんですよね悲しいことに。けれど、嘘か本当かなんて鈴木には分からないし、そもそも信じちゃいない。
怒りで豹変した鈴木が、馬乗りになって嫁の首を絞めて殺してしまう。しかしその嫁は、事故によって瀕死になったアキラを助けるどころかトドメを刺した張本人。そういう意味では因果応報ではあるけれど、鈴木はなんだかんだ真実を知らないまま殺しちゃうんだよなぁ……。
あとから幽霊となったアキラ本人から「強いて言えばあの女のせい」とは聞くけれど、流石にそれだけじゃあ情報が少なすぎて真実は分からないでしょう。

結局、登場人物の全員が全員、死ぬか狂人になるか……という救いのない終わり方。でも、実際問題この人たちが幸せになる未来が一個も思いつかない。悲しいけれど。
始まりから終わりまで常に誰かかしら悪い人がいて、終わりも悲しいものなのに、どういうわけか妙に心に残るんですよね。どうすれば彼らは幸せになれたのか。各々が持つ恨みや妬みの呪縛を断ち切って、誰かひとりでも正しく前向きに生きれればこんなことにはならなかっただろうに。

全員が全員悪いまま、事件は最悪の事態に収束していった。けれど、出てくる漫才やギャグはすごく面白いので、温度差に風邪ひいちゃいそう。
そんな程よい後味の悪さが残る、素晴らしい舞台でした。

ところで。
モッシャン(橋本じゅんさん)の、鈴木に対してというより堺さんに対する語録が凄まじくて面白かったwww
「喜怒哀楽すべての感情を笑顔だけで表現するお前」
「笑顔一本道男」「笑顔の電車道野郎」「スマイル0円野郎」

そこまで言う???ってぐらいめっちゃ言ってて笑った。

そんでもって堺さん。現在の鈴木を演じる時の髪型がオールバックで彼にしては珍しくおでこが出ているのですが、おでこ出すのはめちゃくちゃ嫌がったそうで、お尻を出すのは平気なのにどうして額を出すのが嫌なんでしょう?基準が分からなすぎるw


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