アニーはブロンドだけど、記号じゃない

 正直アタシもあり得ないと思う。
 アニーは「海行きたくない、って言ったらどうする?」と続ける。
 ちょっと待ってよアニー、そもそもそれに備えてダイエットしてその水着が似合う体型を夏までに仕立てたんじゃないの?あれこれ調べてウキウキしてたアニーは?と言いたくなるし、何より「海、行きたくない」は手遅れで今はビーチの入り口で水着に着替えて、あと一歩。解釈次第ではもう海だ。
「いや、わかってる。アタシがおかしいことを言ってるのは十分に、人は死ぬって原則よりも確実ってのはわかってる」
「聞くよ。別れた彼氏でもビーチにいた?」
 アニーが青ざめた顔で言う。
「嘘みたいな話だけど、ずっと私はサメに食べられる夢を見てる」
「サメ?」
「ジョーズって知ってる?」
「名前は」
「冒頭、クリッシーって金髪の子がいて、サメに襲われる。私はそれがトラウマ。どうしてトラウマかって私がそのクリッシーみたいになりたいって思っちゃったから」
「喰われたい?」
「違う。外見とかスタイルに憧れたの、んで私は実際にそういう人間にドンドンなってる」アニーのため息。
「でも夢の中でサメに襲われる。理想の自分に近づくほど、私はサメに襲われる私にそっくりになる。それで、今日ここに来た」
 アニーはブロンドで、ナイスバディで、それは魅力的で大好きな友達だけど、サメから見てもそうらしい。
「だから、説明になってないけど、マジに喰われるって確信して、嘘だと頭じゃ思うけど、ここから動けない」
 ヘイアニー、そりゃ勘違いだって、サメは殆ど人を襲わない。錯覚だ。実際の事故率とかからすれば交通事故とかハチにビビる方がよっぽどいい。
「よし、中止」
 でも私は正夢とか、そういうことは全部あり得ないと思った上で言う。なぜなら私にとって常識、理屈より私はアニーの方が大切な友達だからだ。
 そういうわけで私とアニーは水着のまま山に行く。

 殺人鬼の潜む山荘のペンションに。【続く】

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