(小説)砂岡 4-5「わたしはレズです」
学校から電話が来た。これで何回目だろう。あぁもう!
案の定、相手は森川くんだった。
「いま、塩崎のお母さんが学校に来てる。どうする?」
「引き留めて!」
「いや、お前に会いに来てる。」
「知ってる!」
なにも知らない!
わたしは筋肉の衰えた脚で学校へ走っていた。
担任と校長がわたしを革の椅子に誘導した。わたしが塩崎の友達のひとりとして向き合ったきりだ。塩崎のお母さんがわたしの顔を覚えていること自体、不思議だ。だって、このひとにとって塩崎とわたしは赤の他人だったのだから。当然、こうやって一対一で向き合うことは初めてで、額が塩崎によく似ている。
「あなたで、間違いないわ」
塩崎のお母さんはどこかの雑誌をテーブルの上にそっと置いて、あるページを開いた。わたしがエリザベスと一緒のところに焦点が当たり、多くのカメラが向けられたそのどれかがどこかの雑誌に載った。わたしが写っているものはないと確認したはずなのに。そして、塩崎のお母さんはそこに映った写
真を頼りに人伝にわたしを見つけたのだという。
担任と校長は壁に寄りかかっている。
「こんなところではなく、外へ行きましょうか」
同感です。
「ここでいかが?」
スタバである。了解。
「娘とは特別に仲が良かったのですね」
とっ特別!?いやいやいや。
塩崎のお母さんはどさっと800グラムくらいの紙袋を置いた。
わたしはストロベリー&ベルベットブラウニーフラペチーノ®を安全な場所に移動させた。
「あなたを探していました。」
塩崎のお母さんは紙袋からプリクラを出した。ハードディスクと一緒に。
「これはほんの一部なのでしょう。」
つまり現像されたのは。という意味だ。
「ありがとう。」
「はい。」
「ハルキさん、娘に幸せな時間をくれて、本当に、ありがとう。」
「はい。」
わたしは頷いて、
「もっと一緒にいたかった。」
塩崎のお母さんの顔を見たとたん、塩崎がそこにいるような気がしたから。
「ほんとうに、大好きでした。」
塩崎のお母さんは隣にきて、ゆっくりと肩を抱きしめてくれた。
そっか、やっと告白できたんだ。
ストリートアートには「ひとがひとをひととして」と描かれている。
お墓参りをしてから、塩崎のお母さんを仮設住宅に上がった。
そこでハードディスクとプリクラが入った紙袋をくれた。
「データはコピーしたし、これもスキャンしたわ。でも、これはあなたが持てて。」
塩崎のお母さんからもらったハードディスクとプリクラはお父さんとエリザベスからのメッセージの横に置いた。
どうしてみんな自分の人生を他人に託したり、押し付けたりするんだろう。
誰かのために生きるのが正解なんだろうか。
わたしはなにがしたいんだろう。
なんでもいいか。学校に戻っても、なにも楽しくない。でもなんか、外の世界を知っているお母さんや妹が羨ましかった。わたしも外の世界へ行けるといいな。たとえその先でどんな困難があろうとも、ここよりはマシだし、乗り越えて行けるような気がする。
スマホが鳴る。中井みおさん。
「ハルキじゃん」
「そうだよ」
「人生ヒマ?」
独立後のカオス的状況で急激な経済成長を遂げている只中のイルガで中井みおさんはハッカーなっていた。
わたしはすぐに自宅を飛び出した。
END
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