(小説)砂岡 3-6 「お城」

 わたしはこの物語が 3-5 で終わると思っていた。実際、この物語の作者は2015年にわたしとミオちゃんが仲良くなって、革命なんかに愛想尽かして終わりっていう結末になってんだ。でも、わたしはもうちょっと、いや、もっと作者にこき使われることになるんだ。どうか哀れんでくれ、誰か。

 ブランデンブルク門から西に500mほど行ったところに入雅港がある。そして今日、その沖合にどでかい城が建っている。昨日にはなかったはずだ。上空を複数のヘリがバタバタと飛び回っている。巻き上げられたイルガ市の旗がポールにしがみついてビシバシうねっている。

近い

「ハルキ、ちょっと行くわ」
ミオちゃんは走ってどこかへ行ってしまった。
ふわっと、ミオちゃんの髪のいい匂いがした。

あぁ、またひとりぼっちだ。

 新聞を見ても「あの城」についての記事は何もなかった。陣屈のショッピンモールみたいな大使館の周りもせわしない。
 オイルリグだ。それはいつもはもっとずっと遠くにあるものであり、こんなに近くで見るのはお父さんに見学に連れて行ってもらった以来だ。リグにはミサイルや機銃が付いている。もともと海賊対策で付いているものだ。しかし、今、それは目の前にある。日が差し込むにつれ、仰々しく映る。わたしを含めたそこにいる誰もがそれを見つめていた。

 ぐぉ!びっくりしたぁ!ぶわぁっとすぐ上をさっき市庁舎に突き刺さったのと同じ型のティルトローター機がまっすぐ通り過ぎて城へ向かう。そして、ふわぁっと、ハルに舞い降りて、数人を降ろして、また上空へ消えた。

すべてが静かになった。

 周りがスマホを取り出す中、わたしはただ突っ立っていた。スマホには30人くらいが立っているのが目に入る。そして、歓声と怒号が始まった。うーん。大変なことが起こっているらしいけど、昨日の中井...いや、ミオちゃんと話して革命に愛想も尽きたこともあったし、この革命とは自分とは無関係な気がした。わたしは誰もいない広場でひとりもぐもぐケバブを食べている。みんな騙されて浮ついているだけ。革命なんてただの理想論よ。と、わたしは自分に言い聞かせている。

「グォァーーー!!」

眠気で大きなあくびをするついでに叫んでみたら、バシャーんと椅子ごと倒れた。

「え、いててて。」

幸いケバブも椅子も無事だった。

「だーいじょーぶ?」

その声には覚えがあったが、今、今一番聞きたくない声だ。
いろんな意味で。

「立てる?」

うっせーわ。立てるわ。消えろよ。森川よぉ。
オメェは前章で消えるはずだろーが。

「ほら、立てた」

痛いっ。足首に激痛が走った。
どんだけ勢いよく打ち付けたんだよ。
カンカンカン
ふと、父がリグを見学させてくれたときに登った階段を思い出す。
頭でも打ったか。

だが、こいつの、こいつの目の前で。
捻挫だけでなく、石畳に擦り傷まで付けられた。

「どうしてこんなところに?」

「どうして?わたしこそ聞きたいわ。そして、森川がわたしをまだ愛しているのなら、わたしにするべきことは質問ではなく、治療だ。今すぐ、水とキズパワーパッド持ってこい!」
こころの声がでた。

すると、森川は森川の水筒中の水を膝と腿にかけた。

「殺すぞ」

 わたしは必要十分な剣幕を奴に向けたのち、ひとりで100mも右足を引きずって誰もいなくなった救護所に向かう。飲み水はそこで手に入ったので、それで患部をちゃんと清めてから、小さい絆創膏を何枚か貼った。森川はわたしに肩を貸そうと何度も試みたが、わたしはそれを避けるために、より多くの体力を使わざるをえなかった。

「椅子」

椅子がそこに来た。痛みで泣きそうなのを堪えていると、森川は近寄って、もうひとつの椅子に座った。...逃げられない。

「見て」

森川はスマホを取り出し、わたしに命令した。わたしは立ち上がることもできず、映像を見るしかない。

そこにはエリザベスと昨日、空から落ちてきた男が立っていた。

謎の男はエリザベスにハグをした。

わたしは包帯を巻くのを止めた。

世界へ同時生中継をしていたのか画質も音質もすごくいい。

「このひと誰?」

「知らないの?こっちがエリザベス女王、彼はサラ王女のロレンツォ・アルマーニ王子候補」

そして、始まった。


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