ガザにおけるイスラエル、ハマスの紛争で、短い時間だが、休戦が成立したことがあった。
その理由はポリオのワクチンの接種のためだ。
ガザ地区では衛生状況の悪化で、ワクチン由来のポリオの感染が報告されていた。
この伝播型ワクチン由来ポリオウイルスとは、以下のようなものだ。
このcVDPV2だが、ここ数年でも、衛生状態の悪い地域での発生が報告されていた。
こうした状況のなか、ガザ地区で1回目のワクチン投与が行われたのだ。
ところが、2回目の投与が戦闘の激化で行えるのか危機的な状況にあるという。
公衆衛生的な危機を引き起こす可能性がある。早期に停戦し、子供たちへの2度目のワクチン投与が行われることを強く願う。
さて、このポリオだが、日本でも1960年くらいまでに多数の感染者を出し、小児麻痺等を引き起こしたことがよく知られている。
最後の野生型ポリオウイルスによる麻痺症例が出てから44年。ポリオ感染は過去のものになった。
しかし…。
忘れてはならないのが「ポリオ後症候群」だ。
原因は残存する神経の疲弊ではないかという説があるが、完全には解明されていないという。だいたい感染後40年くらいまでに発症するという。
40年以上ポリオの感染がなくなっているとしても、まだかつてポリオに感染した患者さんがご存命であり、ピークは越えつつあるとはいえ、ポリオは過去の話ではない。
実はこのポリオ後症候群に思い当たる節がある。
今は亡き父のことだ。
亡き父が小学1年生のときにポリオに感染し、1年生の1学期を丸々休んだという話は、どこかで以前に書いたことがある。
このとき、足に若干の麻痺が残り、足を引きずるように歩いていた。足に力が入らず、運動などは不得意だった。ポリオの後遺症だ。
そんな父がまだ会社員だった40代から50代のころ、調子が悪くて歩けなくなったといって、会社を休んだことが何度かある。私はまだそのとき医学部に入る前なので、大変だなあと思っただけであったが、今考えるとあれはポリオ後症候群だ。
医学を学ぶということは、こうした家族の病気の意味が解像度高く理解できるようになるということでもある。ああ、あのときのあれはそれが理由だったか、と。
でもたいてい遅い。思い出の中で振り返るしかないのがちょっと悲しい。
父は幸い回復し、会社員としても仕事を続けていたが、子供たちには見せない苦しみがあったのだろう。
そんなポリオ後症候群だが、医学界でもあまり認識されていないという。
日本はポリオ後症候群のピークを越えた。症状に苦しんだ父も亡くなった。世界でも、アフガニスタン、パキスタン以外の地域では、天然ポリオは根絶された。
しかし、中低所得国では、ポリオが根絶されたのがまだまだ近い過去の話だという国が多い。感染者の実態が明らかにされておらず、サポートも乏しいという。
ポリオ後遺症のために、日常生活に支障が出ている様子は非常に痛ましい。
日本では過去の話になりつつあるが、ガザ、ポリオ後遺症、そしてポリオ後症候群と、今後数十年間は公衆衛生学の問題であり続けるのだ。
10月24日は世界ポリオデーだった。
ポリオがまだまだ過去の感染症ではないことを改めて認識し、関心を失わないようにしていきたい。
タイトル画像は「農村でワクチンを子供たちに投与している医師たち」By adobeの生成AI。
さて今回は公衆衛生の問題なので、ほぼ全文無料にした。以下は購読者限定にする。医師になってから家族の病気を理解することに対する思いなどを書きたい。