拝啓、新卒エンジニアになる私へ。

原題 "A letter to myself as a fresh software engineer" として、IT業界で経験を積んだ今の自分から、新卒時代の自分へ伝えたいことを手紙として綴った内容がとても良かったので、以下に訳していこうと思う。間も無く新卒として就職される方もおられることだろうし。原文は以下より:

私はITエンジニアと機械エンジニアの中間という微妙な立場の人間だが、この「手紙」に書かれている内容は大いに頷けるものばかりで、確かに「新卒の頃にこういうこと誰かが教えてくれてたらな〜」と思う内容ではある。ただ、新卒の頃に話だけ聞いてもピンとこないであろうものもあるので、やっぱり実感として自ら学び取る必要があるとも思う。なので、新卒エンジニアの方がもしこれを読んでいたら、一回読んで終わりではなくぜひ定期的に見返して、その都度自分の経験と照らして少しずつ「納得」していってもらえたら良いかと。

親愛なる私へ、

あなたは卒業したばかりで、もうすぐIT業界でのキャリアをスタートするところでしょう。あまりお楽しみを奪ってはいけませんが、この先にとても楽しい世界が広がっているということぐらいはこっそりお伝えしても良いかと思います。

私がこの手紙を書いているのは、あなたがより素晴らしいプロフェッショナルになれるように、いくらかアドバイスをしたいと思ったからです。これらの内容は、今後の数年間のうちにあなた自身で学んでいく内容ではありますが、私の新卒時代にもし誰かが教えていてくれていたらなぁと思った内容を挙げたものです。順番に特に意味はなく、どれも同じくらい重要です。

マラソンをするんだ、短距離走じゃない。

優れたソフトウェアエンジニアになるまでの道のりは、とても長いものです。何事も急ぎ焦って取り組まないこと、そして簡単に短時間で結果が出ないからといって諦めないことです。学習の時間を十分にとって、関心のあるトピックに精通できるようになってください。これはマラソンであって、短距離走ではないことを忘れないでください。

謙虚であれ、愚かになるな。

謙虚であることは、とても素晴らしい・・・失礼、基本的なことです。あなたが経験豊富なプロフェッショナルになったとしても、いつだって他から学ぶべきことがあります。でもこれは、誰もがあなたよりも優れているということではありません。あなたが、あなた自身とあなたのスキルを尊敬しなくてはならないのです。

自分を尊敬できないのならば、あなたは謙虚ではなく愚かになっています。

他人ではなく、あなた自身と比較せよ。

あなたと他人を比較することは何の意味もありません。あなたが何かに取り組むとき、そこにはあなたよりもそれが得意な人が必ずいます。そしてそこには、あなたよりも得意なその人よりも、さらに得意な人が必ずいます。そしてそこには・・・もういいですね。あなたがやるべきことは、ベストを尽くすことだけです。

もし、あなたよりも優れたエンジニアがいると思ったら、彼/彼女から大いに学びましょう。ベストを尽くすことを続けていれば、やがては誰かがあなたから学ぶようになることでしょう。

肩書きではなく、その人を尊敬すること。

あなたのキャリアにおいて、他に類を見ないほど優秀なプロフェッショナルと仕事をすることもあるでしょう。ここでとても大事なのは、あなたは他に類を見ないほど優秀な人間と出会ったのだということです。その人が持っている肩書きではなく、その人自身のあり方に対して尊敬しなくてはなりません。もしfooさんが "プリンシパルシニアリードエンジニアリングチーフアーキテクト" であったとしても、それはジュニアソフトウェアデベロッパーであるbarさんよりも尊敬を集めることを意味するものではないのです。
[訳注: fooやbarは、サンプルコードなどで「特に意味のない変数名」としてよく使われるもの。メタ構文変数参照。]

安定より、挑戦を選ぼう。

あなたが進む道は、交差点ばかりです。進める方向はたくさんあるかもしれませんが、最終的にそのすべてはあなたにとっての停滞した場所の間に行き着きます。つまり、停滞した場所から外へ出ることになります。

あなたの人生において、 -- たぶん数十年後だと思いますが -- 自分が成し遂げたことに満足して、ちょっと一息つきたい気持ちになるときがくることでしょう。そのときは、あなたがいま停滞している場所から外に出るようにしてみることです。より優れたプロフェッショナルになれると同時に、あなたのキャリアもより満足のいくものになるでしょう。

良い話は、だいたいあなたが停滞している場所の外で起こるものだと覚えておくことです。
[訳注: 「停滞している場所」は、原文ではcomfort zoneとなっており、直訳すると心地よい領域となるが、特に海外のキャリアパスにおいてはネガティブな意味合いで用いられることが多いように思う。居心地が良い=長年その場所に居て、刺激や変化が少ない=停滞している、という思考?]

キーボードじゃなくてホワイトボードにまず向かえ。

新しい機能や新しいシステムを設計しなくてはならないとき、いきなりキーボードに向かってコーディングを始めるのはやめましょう。エンジニアとして鍛えて使うべき「筋肉」は、脳であって、指ではありません。動く前に、まず考えましょう。

そういうわけで、キーボードではなくホワイトボードにまず向かって、何を実装するのかを考えることから始めましょう。あなたの考えを鍛えるためのスパーリングパートナーがいるとさらに良いですね。

あ、私が「ホワイトボード」と言っているものは、「あなたが考える助けになるものすべて」を意味していて、つまりペンと紙とか、ノートブックアプリとか、draw.ioとかを指しています。

コードじゃなくてバリューを生み出せ。

どうかNIH症候群を患わないように。車輪を再発明することは全く無意味です。すでにそこにあるものに時間を浪費するのはやめましょう。

あなたの目的とすることが、いくつかのツールを繋げることで実現できそうなら、ただそれをやりましょう。ソフトウェアエンジニアとしてあなたが事業に提供するべきなのはバリューであって、大量のコードではありません。
[訳注: NIH症候群は、自前主義と言ったほうが自然かも]

仕事より生活を大事に。

IT業界にいると、たやすく仕事に注力しすぎてしまいます。ついには、私たち多くにとってそうですが、ただの仕事ではなく、人生のすべてになってしまうのです。仕事は大切ですが、でも人生はもっと大事であることを忘れないでください。

有意義で豊かな生活を送ってください。スポーツをしたり、本を読んだり、趣味を見つけたり、旅行をして私たちが生きるこの世界の美しさを見てください。友達と過ごしたり、人生のパートナーを見つけて、あなたが持てる限りの愛を捧げて、見守って、支えてあげてください。豊かな人生を送ることが、プロフェッショナルとしてのあなたにさらに磨きをかけることに、きっと驚くことでしょう。

いまあなたに伝えられることは、これで全部です。私もまだまだ学ぶことがたくさんあります。

最後にひとつだけ:この先の世界を楽しんで!🚀

愛を込めて、
(より経験を重ねた)私より。