見出し画像

【エッセイ】子なしですが「子供たち」にご飯を作っています

わたしが保育園の給食調理員を始めた理由
それは…


「自分に子供が生まれたら…」園に預けて、自分もそこで働ける。
子供向けの食事作りを経験しておけば「我が子への…」家庭での自炊の役に立つ。
そういうところに魅力を感じたからです。

しかし、世の中には強く願っても叶わない事もあります。

数年経っても
わたしは子供を授かることはありませんでした。

悩んでいたわたしは、職場でかわいい園児たちや、次々と妊婦さんになっていく先生たちを見るのが辛いと思う日が出てしまうようになっていました。

一緒に働く調理員さんに聞かれて
自身に子供がいないのだと言うと
みなさんに驚かれます。
子供を自分の職場である保育園に
預けて働く方がほとんどだからでしょう。
中には、子供がいないのに、なぜここで働いているのかと聞いてくる方も…。

何のためにこの仕事をしているのか分からない。
こんな精神状態のまま
この仕事を続けていいのだろうか。

と、思うようになりました。

そして実際、夫に
「子供たちを見るのが辛いから
調理員、辞めるかもしれない。」
と話していました。

そんな頃、わたしが調理員をしていると知った、幼なじみの2児のママから、こんなLINEをもらったのです。


「給食には毎日お世話になっているから、違う園だけど感謝せずにはいられない!
バランスよく健康的な食事なんて、毎日なかなか作れない。給食がありがたいよ。」

と。


保育士さんとは違い、園児たちとは、あいさつ程度でほとんど会話する機会はなく、ましてやその親との会話なんて皆無のわたしに、園の垣根を飛び越えて、まさかそんな言葉をかけてもらえるなんて…


嬉しさを感じるのと同時に
恥ずかしながら、自分と、将来の自分の子供の事しか頭に無かった事に気付かされました。


そして
園児たちの健康と、そのご家族を、給食を作ることで支えていこう。

と、その時、決心する事ができたのでした。

自分ではどうすることもできないことで
いつまでも悩んでいるのはとても苦しい。
人生はまだ長い
できることなら毎日、前向きに楽しく暮らしたい
そう思いました。


今日もまた

園児たちの元気でかわいらしい

「いただきます!」

が聞こえて

おかわりをしてくれます。

「ごちそうさまでした!」

が聞こえます。



元々は子供が生まれたら都合が良いという理由で、この仕事を選択しましたが、今、わたしには子供がいません。

正直なところ、自分自身の心の内にある、複雑なこの思いを抱えたまま、これからどうやって、家族・友人と、その子どもたちと関わっていけばいいのかなど、今でも、日々悩んでいます。
「羨ましい」という気持ちが強く、精神的に不安定で、どうしても落ち込んでしまうことが多いからです。


でもあの時、その選択をしていなかったら分からなかった事もたくさんあります。

・自分のペースで働ける事の快適さ。
(HSP気質です。)

・前もって準備ができると心がとても楽。
(献立とレシピは前の月の中旬に届くので
事前に目を通し、当日までに作り方を頭の中でイメージしておくことができます。)

・自分にあったやり方さえ分かれば料理が面倒でなくなること。
(自宅ではとにかく楽な方法で。でも給食では一切手を抜きません!)

・子供の食事を用意することの大変さ。
(だから子育て中の方には、どうか無理せず自分の楽なやり方で!と声を大にして伝えたいです!)

・子供の成長の早さ。
(入園から卒園まで。ミルクから離乳食、離乳食から幼児食へ。食べられる量もどんどん増えていき、ハイハイだった子が走り回っています!)

・子供のかわいさ。
(家族でも保育士でもない、わたしに、覚えたての言葉で話しかけ、満面の笑みで手をふってくれる。ご飯を一生懸命食べてくれる。
わたしの退勤時は園児たちのお昼寝の時間。その寝顔は・・・天使です!)

・子供の体調不良でお休みする他の調理員さんたちのフォローを、わたしならしやすい。

・栄養士さんが考えてくれた美味しくて健康的な献立の数々。

・自分や家族の健康の為に自宅でも料理の知識や経験を活かせること。

・自分が作った物が、人に喜んで食べてもらえるのがこんなにも嬉しいという事。

など。



普段から夫には
「ずっと健康で、わたしより長生きしてね!」
と、よく言っています。

調理員を始めてから、自分や夫の健康を以前よりもっと意識するようになりました。


将来お互い、おじいちゃん、おばあちゃんになってもふたりで元気に過ごして

「美味しいね。」

と、笑いながら毎日一緒に食卓を囲めたら…


わたしはあの時、あの選択をして良かったなぁと
心から思えるような気がしています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?