バッタの兄弟

ある山にバッタの兄弟がいました。弟バッタは、とても兄思いの弟です。
兄のお腹が減る前に、弟は山に出かけました。
「お兄さんは、今日は何が食べたいかな。おいしいものを取って持って帰ってあげよう」

弟は兄を喜ばせようという一心で、一生懸命おいしい食べ物を探します。弟はいつも一番おいしいところを兄にあげて、自分はあまり美味しくない筋のところや端っこばかりを食べていました。

しかし兄バッタはそんな優しい心を持った弟のことを信用していませんでした。兄はとても疑い深く、貪欲な心の持ち主で、弟のことをこのように思っていました。
「こんなにおいしいところを私にいつもくれるということは、弟はきっと私に隠れて、もっとおいしいものを食べているに違いない」

兄は食事の度に弟を憎む気持ちがだんだん大きくなっていきました。兄はいてもたってもいられなくなり、弟のあとをつけたりしましたが、なかなか弟が隠れておいしいものを食べているところを見つけることができません。

しかし弟の不正を見つけることができなければできないほど、貪る心が増長していきました。
「弟め、なかなか尻尾をださないな。いつもどこでおいしいものを隠れて食べているのだ」

兄はついにしびれを切らして、恐ろしいことを考えるようになりました。
「こうなったら弟が寝ているとき、腹を割いて何を食べたか調べてみよう」

自分よりおいしいものを食べていると信じ込んでいる兄バッタは、ついに弟が寝ている間に、弟のお腹を割いて殺してしまいました。
「さて、弟は私に隠れてどんなに美味しいものを食べていたのかな」

兄は弟のお腹の中を調べてみました。そうすると、兄は自分の目を疑いました。弟のお腹には、筋だらけのまずい部分だけしかなく、美味しいところは何一つ食べていなかったことを知りました。

弟の優しさに気がついた兄は、悲しみに打ちひしがれ、食べ物も全く喉を通らなくなりました。後悔と懺悔の日々を送り、毎日涙が止まりません。

弟を亡くしてどんなに悲しみにふけっていても、お腹が空いてしまうのが生き物の性です。兄は食べ物を探しに外を歩き回りましたが、食べものをみつけることができません。弟がどれだけ自分のために食べ物を必死に探してくれていたのか、兄バッタは自分が探してみてやっと気が付いたのです。

兄は後悔しても後悔しきれません。
「弟のために私は何一つやってあげたことはなかった。それどころか弟を毎日憎しみ、挙句の上、自分の貪りのために殺してしまった。ああ、弟とおいしい食べ物を分かち合って楽しい時間を過ごしたい…」

兄バッタは今日も後悔の念を胸に、空腹状態で食べ物を探し、彷徨い続けています。

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