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何したって辛くて暗い人生?!

とても評判が良かった呉服屋が、突然、破産してしまいました。
番頭がお金を勝手に使い込んでしまっていたことが原因です。

店の主人は、店、お金、家族、友人、信頼、すべてを失いました。妻は子どもを連れて実家に戻ってしまい、今まで慕ってくれていた顧客や仕事仲間は、急に主人と距離を取るようになりました。


主人は新天地で再出発をしようと、店にあった残り少ないお金を持って旅に出ました。休憩に立ち寄った茶店を後にしてしばらく歩いていると、懐に入れてあった財布がなくなっていることに気が付きました。通行人とすれ違った時にすられてしまったのです。

すべてを失った主人は、その場に座り込んでしまいました。その時ちょうど目の前にあった道しるべに、こう書かれてありました。
「西つらし、北くらし」

主人はその道しるべを見た途端、身体から一気に力が抜けてしまいました。
「西に向かっても辛いし、北に向かっても暗いだけか…」

主人は急に現実に戻され、何もかもが嫌になってしまいました。
「いっそのことこの世から消えることができれば、どれだけ楽になるか...」

主人は思い詰めながら、あてもなく歩き始めてしばらくすると、小さな寺に辿り着きました。
境内に入るとそこに大きな松の木がありました。主人はその木をずっと眺めていました。木の枝に縄をかけ首をつればきっと楽になれると主人の頭をよぎったとき、和尚が話しかけてきました。

主人は今迄の経緯を和尚に話しました。
そうすると、和尚は、笑いながら言いました。
「その道しるべは、西つらじま、北くらしき、じゃ。古くなって字が消えかかっておるんじゃろう」

そこに、さきほど立ち寄った茶店の人が、茶店に忘れた財布を届けに来ました。

和尚は言いました。

悪いことが起こると、またすぐに悪いことが起こる。
しかしそれは思い込みじゃ。
お前さんが道しるべを読み間違え、財布も盗まれたと思い込んだのも、自分には悪いことしか起こらないと思い込んでいるからじゃ。
呉服屋がなくなってしまったのは残念だったが、その店も元々何もないところから始めたのであろう。だったら新天地で再起をすればよい。
あせらずに何度でも挑戦すればよい。
頑張ていれば、いつか妻子も戻ってくるであろう。

和尚は主人を励まし、葬式と法事で得たお布施を餞別として主人に与えて、送り出しました。

主人は再起を誓って旅立っていきました。

それから十年後、主人は商売を成功させ、妻子を呼び戻すことができました。主人は、和尚の寺に立派な釣鐘を納めました。

そして、人々があの道しるべを見て絶望しないように、「西連島、北倉敷」と漢字で書いた新しい道しるべを建て直しました。

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