見出し画像

演劇/微熱少年vol.3『「小医癒病」中医癒人大医癒世』をめぐって①

専門領域はドラマになるのか?

山崎豊子の小説「白い巨塔」は1960年代前半に書かれ、医局講座制度の問題点と医学界の権力や利権構造を描いた名作であり、田宮二郎主演による最初の映像化から何度もそれが繰り返されただけでなく、後に1968年から69年の東大紛争に大きな影響を与えた、まさに「社会派」小説の金字塔ともいえる作品だ。

「白い巨塔」DVDパッケージ

この作品が投げかけた社会へのメッセージは大きく、山本周五郎の「赤ひげ診療譚」を原作とする黒澤明監督の「赤ひげ」のような作品でさえ、医学という専門領域を通じて権威・権力の構造を批判的に描くというスタイルは、その後も多くのフォロワーを生み出してきた。

黒澤明監督「赤ひげ」演・三船敏郎

その潮流は「救命病棟24時」シリーズや、「チーム・バチスタ」シリーズ、「コードブルー」「風のガーデン」…と、様々な医療のフェーズを描き、また、映像的にも「絵になる」こともあり、今日まで途切れることなく多くの作品がつくられてきた。

「救命病棟24時」江口洋介・松嶋菜々子

中には設定の不自然さが目立ったり、荒唐無稽な作品がなかったわけではないが、テレビや映画のテーマとして大きなジャンルを担ってきたのは間違いない。それは医学・医療をめぐる社会問題とヒーローものの融合というジャンルを確立した「ドクターX」で一つのピークを迎えたようにも思う。

「ドクターX」米倉涼子

近年では佐藤秀峰の漫画原作による「ブラックジャックによろしく」を一つの契機として研修医の成長を描くドラマも増えた。ライセンスを持ちながらも未熟であるが故に苦悩する主人公という状況設定は視聴者の共感を呼ぶのか、研修医とスーパードクターという対比を作品に持ち込むドラマも増えてきた。

佐藤秀峰「ブラックジャックによろしく」

対して、舞台演劇で医療を描いたものはと問われると、やはり前述の「赤ひげ」を前進座が長くレパートリーとして上演しているが、他には2019年にロバート・アイクが書いた「The Doctor」がロンドンで上演されるまで目立って大きく話題になる作品を私は知らないで来た。

もちろん、医療をテーマにした演劇作品がなかったわけではない。1940年代後半には長野県の佐久総合病院の医師だった若月俊一が近代医療の必要性を農民たちに伝える手段として宮澤賢治の「演説よりも演劇を」という言葉を援用して病院劇団部による公演を開始し、現在に至るまで浅間総合病院の仲元司らを中心とした「医療伝道演劇」の系譜は続いている。

佐久総合病院における若月俊一らの「出張診療」のあとには
演劇や人形劇、コーラスなどを使った健康教育が行われた。

また、一方で医療の側からも「患者の受療権を守る運動」としてCOMLなどの団体が「患者塾」「SP・模擬患者」運動をすすめたり、その運動から生まれた「模擬診療」のシナリオを使った医療面接のトレーニングなども行われてきた。
www.coml.gr.jp
ただ、どうしても医療を「主題」としたとき、生命や倫理といった大きなテーマ性が前面に出て来ることで、対話の規模が大きなものになり、メッセージ性が強くなってしまう傾向は否めなかった。

そうした傾向にたいして、そのメッセージ性を【正解】として「伝える」から「選び取る」「見つけ出す」演劇は作れないだろうか?と、私は考えた。なぜなら、医療の現場において選択肢全てがその選択をする人の背負う【物語性】において【正解】であって【不正解】がないということを(「失敗」はある)知っていたからだ。

平田オリザは自身が提唱する「現代口語演劇」の考え方の一つとして、「劇作家の思想を伝えるのではなく、劇作家に見えている世界を描くことで多様な価値観を擦り合わせる対話を生み出す」と言った。その方法で医療の世界を描くことは出来ないだろうか?それが2018年に私が「研修医たち」と仮題を付して書き始めた戯曲の動機だった。

平田オリザ「現代口語演劇のために」(絶版・同内容は「演劇入門」(講談社新書)に移管)

そうして私はかつて自分自身が勤務していた病院での経験をもとに、初めての長編口語戯曲を書き上げた。当初企図していた研修医たちの群像劇はもう少し大きな世界観への余韻を残すことになり、私の構想はその担う医療フェーズの違いによる3部作へと拡大した。そこで私は、かつて私を導いてくれた病院長が座右の銘としていた「小医は病を治す、中医は人を治す、大医は国を治す」に肖りシリーズのタイトルを『小医癒病中医癒人大医癒世』とし、その第1部「小医癒病」を括弧で括った。

演劇/微熱少年vol.3「小医癒病」中医癒人大医癒世


しょういはやまいをいやす、ちゅういはひとをいやす、だいいはよをいやす

作・演出 加藤真史
2022年10月22・23日(4ステージ)

太田市学習文化センター視聴覚ホール

2006年6月、沼田中央病院では7名の研修医たちが日々切磋琢磨している。1年目研修医はそれぞれの技術習得に夢中、2年目研修医はそろそろ研修終了後の進路も気になり始めている。ある日、診療参加型医療実習「クリニカルクラークシップ」に参加するため医学生がやってくる。医療者にとっては日常になってしまっていることが医学生にはまだ珍しい。そんな素朴な疑問や驚きが池に投げられた小石が起こす斑紋のように研修医たちの間に静かな波を起こす。
「生きる」とは何か?「死」とは何か?答えの出ない問いに挑む研修医たちとそれを取り巻く医療人の群像劇。

第24回日本劇作家協会新人戯曲賞1次通過の戯曲をリライトのうえ、ついに上演!

【出演】
新井聖二 成澤陽子 入内島優奈 村山朋果 赤井那帆 武藤真大 木田恭平 佐藤壮成 山﨑香 川原崎晴紀 東雲楽 栗原一美 みずだけ豆太 加藤亮佑 酒巻誉洋 久保田雅彦 滝川いくた 根岸佐千子 荒井正人 中村ひろみ

【美術】濱崎賢二(六尺堂・青年団)
【照明】深町友基(TM Light Company)
【テーマソング】入内島詩織
【医事監修】鈴木諭(利根中央病院 総合診療科科長)
【映像記録】岡安賢一(あがつまご縁屋)
【チケット情報】
 一般    3,000円
 U-22・学生 1,000円
 ※「困った割」身体の不自由な方・経済的に困難な状況にある方は無料でご観劇頂けます。お問い合わせください。
☆8月26日10時より販売開始
・カンフェティ
 セブンイレブンで紙チケットを発券、電話予約が使えます。
 https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=67596&
 お電話予約: 0120-240-540*通話料無料
(受付時間 平日10:00~18:00※オペレーター対応)
・Peatix
 オンラインチケットレス予約が出来ます。
 https://engekibinetsu.peatix.com/
【その他注意事項】
未就学児童はご入場いただけません。
マスク着用など新型コロナウイルス感染対策にご協力ください。
【協力】
劇団ブナの木 a/r/t/s Lab 松竹エンタテインメント 邑楽町民劇団 すたりあ倶楽部 フォセット・コンシェルジュ 演劇プロデュースとろんぷ・るいゆ Ota Art Garden 新日本演劇 ぐんま演劇商店街(順不同)
【後援】
群馬県 群馬県教育委員会 群馬県教育文化事業団 太田市 太田市教育委員会 エフエム太郎
【助成】
文化庁ARTS for the future! 2 文化芸術振興費補助金(コロナからの文化芸術活動の再興支援事業)
【制作】演劇/微熱少年 加藤総合研究所 【制作補】新井由美 武井道子 本木薫 嶋村友希
【主催】演劇/微熱少年

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?