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【翻訳メモ】INSIGHTS FOR THE JOURNEY

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■全体目次 https://note.com/enflow/n/n51b86f9d3e39 ■「ティール組織」の著者であるFrederic Laloux によるINSIGHTS…
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2020年11月の記事一覧

フレデリック・ラルー、誠実さと活力を取り戻すための招待状① (Frederic Laloux with an invitation to reclaim integrity and aliveness)

今回から何回かに分けてになりますが、2020年10月、セルフマネジメント組織コーチであるLisa Gillが主催する「Leadermorphosis」というポッドキャストに、フレデリック・ラルーが登場したときのインタビューを載せていきます(1時間20分あるので、多分6回くらいに分けると思います)。今は、「ティール」を話すことから離れてしまったと言われるフレデリック・ラルーが、久しぶりに「ティール」について語る、それほどレアなポッドキャストです。コロナや「ドローダウン」といった

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【4.4.10】CEOの引継ぎ("CEO" succession)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/4410.html ■翻訳メモ いくつかのCEOの交代に直面している組織と会話を持ちました。今回はセルフマネジメント組織のパラドックスの核心を突いた、とても重要なトピックを扱います。 セルフマネジメント組織では、CEOは伝統的な組織よりも重要であるようであり、同時に重要でないようにも思えます。このパラドックスを理解するには、CEOを一つの箱として話すのをやめ、詳細な役割を見ていく必要があります。私たちは他の人に対しては職務レベルにばらして話すのですから、CEOについて同じようにすればよいということです。CEOの「役割」については【1.10 Your roles in this new world】で話しました。CEOという箱に収まる役割はいくつかあります。その一つは、組織の外部と内部の「顔」となることです。しかし、今回の主旨は、それについて話そうというものではありません。CEOの交代について話すとき、本当に重要になるのは、次の二つの役割です。 その「役割」の中にある、引き継がれるべきものの1つは、「源(ソース)」です。繰り返しになりますが、この「源(ソース)」という言葉を聞いてピンとこない人は【1.10】に戻ってください。もう一つの役割は、この新しいマネジメントパラダイムのための「場を保持する」役割です。これによって、旧来の階層的で機械的なパラダイムに戻らないようにします。ですから、実際に話しているのは、これらのさまざまなCEOの役割、特に「源」と「場の保持」の二つの役割の継承についてです。 これらの役割を明確に区別して見てみることが重要です。なぜなら、これら二つの役割またはそれ以上の役割を引き継ぐのが必ずしも一人の人物である必要はないからです。これらの役割は二人以上の人物に分けて担われることも可能です。 ではもう少し具体的に見ていきましょう。次は、新しく「役割」を担う人、つまり、どうやって後継者を見つけ出すかという問題です。しかし、それは、多くの場合、ある意味、自然発生的です。セルフマネジメント組織にも、いくつかの自然発生的な階層があることはお伝えしました。ゆえに、誰が「源」を引き継ぐか、誰が「場の保持」していくかは、非常にはっきりしていることもよくあります。 今のCEOがアドバイスプロセスを使って、次のCEOを決める、とてもシンプルな方法があります。例えば、「私の後継者として、私はこの人が適任だと思います」と言い、アドバイスプロセスを通じて意見を聞くやり方です。そうでないと思う人は別の誰かを推薦することもできます。とてもシンプルな方法です。もしこれがうまく行われれば、アドバイスプロセスを使用することで、全員が自然に納得します。自然発生的な階層があり、全員がその役割に最適な人を認識しているからです。 もし、これらの重要な役割を埋めるために、よりチームプロセスを取り入れたいのであれば、ソシオクラシーの選挙プロセスを検討することをお勧めします。候補者なしの選挙プロセスであり、グーグルで検索すればその方法を見つけることができるでしょう。このプロセスは非常に美しいもので、いくつかのラウンドを経て行われます。 最初に、メンバーがその役割に対する期待やコンピテンシーについて説明します。その後、全員が心と思いで最適だと思う名前を一つ書きます。そして、それについて話し合い、一人を選びます。場合によっては、異議申し立てのラウンドも行います。 これは候補者なしの選挙であり、誰かが票を集めようとするのではありません。全員が本当にその役割に必要なものについて深く考え、誰が最適かを真剣に議論します。こうして、集合的な知性を活用して最適な人が選び出されます。 ソシオクラシーの選挙プロセスがうまく機能するためには、最も有力な候補者をできるだけ多くのメンバーが知っていることです。したがって、大きな組織の場合、最も有力な候補者を知っているのは、その組織に長くシニア・メンバーであることが多くなってきます。ただ、これは少し厄介な問題です。もう1点は、できるだけ、すべての人を巻き込みたいと思って企画している選挙ですが、他の国で働いていて、候補者と一度も会ったことがないといった場合、そこに参加できないという事態が起こります。 そういう時は現実に即して、実際にその人を知らなくても、そのポジションに適任かどうか、人の意見を聞き、その資質を確かめていく以外に方法にはないでしょう。ただし、プロセスの最初の段階で、役割に最適な人物を選ぶのではなく、どのような資質が求められているのかを議論する際には、組織のあらゆる部分から声を集めることが非常に興味深く、有益でもあります。 私が絶対にお勧めしないのは、全社投票の選挙です。過去の話ではなく、今でもこのような社内で選挙運動を行わっている組織があります。それは、当然、組織の分断を引き起こします。このように候補者が勝ち負けすると、勝った人に愛情が湧かないこともあります。これは民主主義の選挙で好ましくない点をすべて引き出してしまうのです。ですから、これは本当に避けるべきだと思います。 「源」と「場の保持」の引継ぎを行う場合、一種の公開の「儀式」を行うことがとても重要だと考えています。そして、この「源(ソース)」という言葉を最初に使ったピーター・カーニックがその考え方について次のように語っています。「今ある源(ソース)が次の経営者に受け継がれることは絶対に重要です。ですから、古い役割を果たした人物に感謝し、新しく役割を受け継ぐ人物を歓迎する公開の儀式を行うことは、本当に重要だと思います」 最後に、外部からの招へいについて、私の考えを話しておきたいと思います。一部の組織では、「特定の役割を果たせそうな人は組織にいません。だから私たちは組織を深く理解してくれて、会社を成長させてくれそうな人を外部から招へいしたいのです」と言います。 米国フロリダ州にあるサン・ハイドロリクス社に良い例があります。同社は、創設者のロバート・コスキーが存命時に、3回か4回の経営トップの交代を経験しました。そしてそれらはすべて、うまくいきました。彼らの成功ポイントとして私が重要視しているのは、彼らは最初からCEOのポジションで人を雇わなかった点です。その代わり、彼らは、いずれCEOとして、しかるべき資質を身につける可能性がある人物を雇ったのです。彼らは後継者候補を雇い入れる際、「組織に貢献できると思う、あなたが持っている価値を高めてください」とだけ言いました。そして、自然な階層の中で、彼らの働きぶりを見たメンバーからは、「私たちは彼こそがそのポジションにふさわしいと思います。彼に来てもらって本当に良かったと思います」という声が上がってきます。彼らが後継者に選ばれる自然な道筋ができてきます。CEOの引継ぎについては、以上です。 最後に、特定の役割のことについて話させてください。今回は、「この役割にふさわしい候補者を探してください」というアプローチのことをお話ししました。そして、ほとんどの場合、これは思っている以上に簡単なプロセスだと思います。なぜなら、誰もがその役割を埋めるのに最も自然で、明確になっている候補者が、一人いることに気付くからです。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.4.9】危機に瀕したとき(In times of crisis)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/449.html ■翻訳メモ 「セルフマネジメント」がどの程度まで深く根付いたかは、組織が危機に瀕した時に明らかになります。私の知る限り、その瞬間、組織は2つの異なった方向に進むようです。 その1つは、完全なる後戻りです。危機が迫った際、「セルフマネジメント」を捨てて、突然襲ってきた恐怖に対して自己防衛反応を露わにします。そして、危機に瀕したその時だけ現在の体制である「セルフマネジメント」を一時停止し、トップの決断に委ねるべきだという意見が優勢になります。これは、トップマネジメントが再び力を取り戻す時の到来を意味します。彼らは「責任」を背負って多くのことに対処していきます。それが1つ目のパターンです。 「セルフマネジメント」への理解が深く浸透している組織は、まったく別の行動をとります。これは、危機を乗り越えるには、「集合的な知性」と「幅広い領域におけるメンバーの貢献」が必要であることを各自が認識している組織でもあると言えます。 いくつか例を挙げます。ビュートゾルフ社の場合、設立初期に突如として運営資金の問題に直面した時期がありました。新しい看護チームが次々と立ち上がりましたが、看護チームは初期段階では収益を生まないため、コストがかかります。そのため、資金がショートしそうになったのです。まさしく、危機的な瞬間でした。しかし、ヨス・デ・ブロックは、そこで集団知性のプロセスを強化しました。彼は看護師全員にこの困難を共有し、次のように問いかけました。「成長を遅らせるべきか、それとも皆が働く40時間の中で、55時間分の、いや、60時間分の生産性を出すことができるだろうか?」彼はこの問題を看護師全員に投げかけ、そこで多くの議論が生まれました。最終的に看護師たちは、「患者の人たちが私たちのケアを必要としている以上、成長は止めることはできない。だったら、私たちが生産性を向上させるしかない」と結論付けました。彼は成長を遅らせるかどうかの決定を自分一人で行わず、集団の知性を使ってその決定プロセスを行いました。この事例については『ティール組織』の本の中でも触れています。 もう一例、自動車部品のサプライヤーであるファビ社は、湾岸戦争の際、自動車の注文の激減といった危機に直面しました。その際、経営陣は、臨時雇いの労働者を解雇する代わりに、機械の稼働時間を減らしました。従業員みんなを集めて、工場の一角で輪になって会話を持った時、30分か1時間か、そんな短い時間で、彼らはこの問題の答えを見つけました。これは驚くべきことでした。こうやって、ファビ社は、メンバーを信頼して、「集合的な知性」に任せることの大切さを理解したのです。 これは重要な選択の瞬間です。「セルフマネジメント」をどれほど深く理解しているかが問われることになります。それが必要だと感じて、旧来の「トップダウン」の方法に戻すのか、それとも、「セルフマネジメント」をさらに徹底するのか。必要なら、外部の専門家に相談して、同時に存在するこれらの2つの捉え方を整理することをお勧めします。 さて、ここで、危機についてもう少し哲学的な観点から2つの考えを追加したいと思います。まず、私が気づいたのは、多くの人が実際には危機ではないものを危機と呼んでいるということです。例えば、かつては大きく成長していたのに、今は成長が止まってしまった、これは本当に危機なのでしょうか。ある組織との会話を思い出します。もし私たちが組織を生きている有機体と考えるなら、その組織も生き物の法則に従います。そして、その法則の一つは、成長期と再生期があるということです。 季節を比喩に使うととても分かりやすいと思います。春と夏には驚くほど成長し、物事が発展しますが、秋と冬には物事がスローダウンし、時には物事が衰退しているように見えることさえあります。それが万物流転の法則です。実際、冬に起こることは、次の春に成長するための準備が見えない形で進行しているということです。 そこで、あなたへ質問です。つまり、あなたの言う「危機」は、本当に「危機」なのでしょうか?この自然のサイクルにおける1つのフェーズを指すのでしょうか?そのことから何を学べるでしょうか?減速することに価値はあるでしょうか?一時停止することに価値はあるでしょうか?組織のライフスパン中で、目に見えないところで密やかに整いつつあるものは何でしょうか? 二つ目の考え方は、直面している危機が本当の危機であろうとそうでなかろうと、その状況を少し軽く受け止めることはできないか、ということです。組織が、それ自身の「存在目的」によって生かされている存在であるならば、すべてを制御することはできないはずです。そして、その「存在目的」は、自らが進むべき方向を発見し、個人の肩にかかった重荷を下ろさせるでしょう。組織が生来ながらに持っている「生命の息吹」は、人知を超えたものです。そこで個人ができることといったら、できる限り組織と共に踊り、できる限りの愛情を持って、組織を健康で繁栄させるよう努めることだけです。組織の生命の循環をコントロールできる人はいません。それゆえ、そのことを少し軽く受け止めることはできないでしょうか。 このパラダイムの変化を考えると、最終的に本当に重要なのは「存在目的」です。組織そのものではありません。組織やチーム、ユニットの存続が目的ではなく、「存在目的」自体が重要なのです。たとえ組織が消滅しても、その構成要素は他の場所で再び集まり、その「存在目的」をより良い方法で継続するかもしれません。もし組織が生命的な存在であるなら、死もその一部です。繰り返しますが、本当に重要なのは「存在目的」です。組織の存続という重荷を個人個人が背負うということではありません。それぞれの人の役割は、ただ耳を傾け、それに対処することです。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html

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【4.4.8】セルフマネジメント組織の給与制度(Salaries in self-managing organizations)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/448.html ■翻訳メモ 「セルフマネジメント」に移行するすべての組織にとって、避けて通れないのが、給与にかんする問題です。それは主に次の4つから成ります。まず「金額」、その次に「昇給」、そして「透明性」と続いて、最後が「ボーナス」と「インセンティブ」です。それぞれについて、いくつかの考えがあります。それらを紹介していきましょう。 誰がいくらもらうかという給与の問題は、多くの「セルフマネジメント」に向かう組織でも発生します。おそらく、そこで働く人々にとって、給与が何を意味するかを考えるのは初めてのことでしょう。多くの組織では、メンバー全員の給与額は公開されていないはずです。入社時に熱心に交渉を進めた人などは、同じ仕事をしている同僚よりも高い給料をもらっている場合があります。また、性別や人種による不均衡が存在することはよく知られています。この問題に取り組む際は、最初に透明性の検討から入る企業が多いようです。 ブファー社というソーシャルメディア企業があります。彼らは、特に閲覧権限は設けずに、実にさまざまな自社の試みを公開しています。それらはすべて透明性が高く、彼らが学んだことを踏襲することの意義は大きいと感じています。一般的には、給与モデルが効果的に機能を発揮するのは、職務連動型とされています。そのことについては、ひとつ前の4.4.7の動画で話しました。そして、時折、他の基準が追加されることもあります。たとえば、ある人が物価の高い都市に住んでいる場合、生活費の調整が行われるかもしれません。また、難易度の高いスキルを持っていたら、そのために調整が必要な場合もあります。プログラマーやIT技術者も、専門性のいかんにかかわらず、他の職務に比べて、相対的に給与のレンジは高いようです。企業側から声をかけて社員になってもらうのなら、通常より多く支払う必要も出てくるでしょう。それらが公正かどうかは別問題です。もし調べようと思ったら、公開されている業界の平均給与額を調べれば、乖離が明らかになります。 採用してしまってからでは手遅れなので、こういう給与体系はやめておいたほうがいいと、先に、きっぱり言っておきたいのが、職務連動型です。このシステムは、「役割」と「報酬」がリンクするので、一見、自然に感じるかもしれません。しかし、例えば、ある人が5つの役割を兼任しているからといって、割増ししようというのはやめておいた方が良いということです。それは、役割へのこだわりを増長させるだけです。例えば、「私は現在6つの役割を持っています。しかし、その内の1つに忙殺されて、それ以外に十分な時間が割けません。なので、それらの「役割」の一部を誰かに、一時的か、もしくは、ずっと、渡すことはできませんか?」ということは起こりうることです。その際、その「役割」に値段がついていたらどうですか?その「役割」に割り当てられた「支払額」が小さいから、やりたくない、となっていると、組織の流動性を落としてしまいます。これをやっていると、以前のような恐怖観念や社内政治が戻ってきて、すべてが減速し、有機的ではなくなってきます。何度でも言いますが、メンバーが目指すものに「役割」が入っていることは好ましくないのです。それによってメンバーがより多くの痛みを得ることになるからです。 2番目の問題は昇給の問題です。給与額の確定が終わったあと、組織のシステムに慣れ親しんだ人ほど、昇進した人の給与額が気になるようです。しかし、その点については、『ティール組織』の本に詳しく書いたので、ここではあまり触れません。一方で、例えば、モーニングスター社のように、給与の年次更新を、アドバイスプロセスを用いて自己申告制で行う組織もあります。また、「Reinventing Organizations Wiki」には給与に関する多くのヒントが載っています。自己申告制の給与がどのように機能するかや、格付けによる給与の決定方法など、さまざまな例が示されています。これらのアプローチは、格付けのシステムの有無にかかわらず適用できます。アドバイスプロセスを用いたり、給与決定システムを利用したりしてランクを上げることで、より高い給与を得ることが可能です。 3番目は、透明性に関する問題です。私は、最終的には、完全に透明であることが理想だと信じています。誰のものであっても、給与額を隠す必要はないと思っています。一部の組織では、ある日突然、全ての給与を公開したという話を聞いたことがあります。すると、当然のことながら、彼らはそれぞれを比較して、「彼が彼女よりもはるかに多くもらっているのは不公平だ」といった声がしばらくの間、組織内で広がりました。しかし、しばらくすると、メンバーは前に進み、その騒ぎは沈静化しました。給与額の差についてはそれ以外にも懸念すべき点があります。客観性が担保された給与レンジを持っていない組織の場合、もともとの給与額が高い人は、周りが追いつくまで昇給を止めるのが良いと思います。そのため、周りと合わせるために給与額を下げることは避けるべきです。 次は、ボーナスとインセンティブですが、これも大きな問題です。私が関わっている、すべてのセルフマネジメント組織では、個人の業績の応じたボーナス制度を廃止し、利益分配制に移行しました。それは、とても理にかなったやり方です。つまり、ボーナスとインセンティブは、非常に強力な薬であり、ひどい副作用を引き起こすものです。そして、それらは「セルフマネジメント」の機能を阻害し、歪めてしまいます。そこで働く人たちは、仕事そのものから「やりがい」を得るべきです。仕事に意味を見出し、得意先と有意義な関係を持ち、自分たちで仕事そのものを良くしていきます。ただし、組織が非常に利益を上げている場合は、誰もがその利益の適正な割り当てを受けるべきです。 従業員が自分たちでオーナーになっている組織であれば、間違いなく利益はメンバーに分配されるでしょう。一部の非営利団体では、「すべての利益の30%が再分配される」といった規則が明記されている場合もあります。多くの場合は、1人あたりの受取額は全員が同じです。したがって、給与が低い人の場合は、高い人よりも、その割合がより大きくなります。いくつかの組織では、年間の2~4か月分の給与額に相当する額を利益分配により得ることができています。これよりも複雑なシステムもあれば、給与の一定割合に基づいて支給している組織もあります。もっとシンプルにするために、全員に同じ額を支給しているところもあります。 米国、ニューヨーク州の北部にあるある企業は、このアイデアに独自のアプローチを加えています。彼らのモデルでは、利益分配が年に一度ではなく毎月行われます。彼らはこの利益分配が、個人と組織を強く結びつけると確信しています。さらに、この方法によって組織の運営が大きく進化したと述べています。また、毎月組織の成績に直面することで、メンバーの財務知識が向上したとも言われています。例えば、光学レンズを製造する工場で働く人々でさえ、財務状況を理解することで、前月の給与がどのようになったのかを把握することができます。これは、彼ら個人だけでなく、組織全体にとっても明らかな利点です。 ここまで、4つの問題を検討してきましたが、さらに1つ追加して、5つ目の問題についても触れます。それは、これらの問題について心配するタイミングです。私のアドバイスは、できるだけ早くではなく、できるだけ後に心配することです。私はいくつかの組織から、たとえば給与を早い段階で透明化することが重要だという意見を聞いたことがありますが、私はむしろ後で行うことをお勧めします。なぜなら、セルフマネジメントがうまく機能するためには、他の成功体験を積み重ねることが重要だからです。ある程度の成熟度を持ってから取り組むべきです。お金に関することは感情的になりやすいので、最大限の成熟度を持っているときに対処することが重要です。プロセスの早い段階で行うことは、問題を引き起こす可能性がありますので、避けるべきです。 最後のアイデアになります。これまでのすべての企業で、セルフマネジメントに移行しても、実力主義の枠組みは依然として残っています。つまり、より幅広い範囲の役割を担当する人が、より高い給料を得るということです。私の友人であるミッキー・カシュトンが、私に考えを共有してくれました。彼女は、将来、給与は実力主義から離れ、必要性に基づくものに移行すると信じています。例えば、年老いた両親の介護や多くの子供の養育費、里親としての責任がある場合、役割に関係なく、上級者よりも多くの給料を受け取るべきだというものです。この考えが妥当であることは直感的にも理解できると思います。ただし、この考えが一般的になるにはまだ時間がかかります。組織がこの方向に進むと、外部から高額の給料を要求する優秀な人材を引きつけるのが難しくなります。そのため、この方向性への移行もゆっくりとしたものになるでしょう。それでも、必要性に基づく給与の考え方を保持することは興味深く、重要だと考えます。 もしもこの方法が実現可能であるとするならば、組織内にそのためのファンドを設けることで達成されると思います。そして、給与額の何パーセントなどと上限を決めて積み立てしますが、希望すれば、その仕組みから外れることも可能にしておきます。誰もが利用できるファンドを組織内に設置することで、特別な支援を必要とする人が利用できるようにします。人生にはライフステージやライフイベントに応じてお金が必要な時期が訪れるものです。このような必要性に応じて給与が支給されるシステムは、実力主義のシステムと同様に素晴らしいものになる可能性があると考えます。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.4.7】キャリアアップについての考え方(What happens to career progression?)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/447.html ■翻訳メモ 今回は私がよく受ける質問についてお話しします。それは、多くの組織で起こる自然な問題のようです。つまり、キャリアの問題です。ここで一つ例を挙げましょう。先日受け取ったメールです。 チームは、あなたの本に非常に熱心で、情熱を持って「セルフマネジメント」に取り組んでいます。しかし、その中で働くあるマネージャーは、自分自身のキャリア成長について悩んでいます。このチームは、インドを拠点としており、文化的な圧力が加わります。つまり、次々に新たな役職を経験するようなスピード感をもって昇進して行かなければ、もしくは、チームの規模が年ごとに倍になるようなスピードをもって成長させて行かなければ、キャリアが成長したとは考えられないのです。 この手の質問が出てくるのはインドだけではないようです。私たちは自己のキャリアの価値を「昇進」で測ることに慣れてきました。そして、急に競争が消え、「出世のはしご」が消滅したとき、チームのメンバーにとって、それを受け入れる時間が必要になります。 私が重要だと思うのは、「はしご」がなくなったことによって生じる痛みを組織が受け入れることです。どうしても一部の人は、「出世」という外的動機づけをモチベーションとして働いています。もちろん、私たちの目標は人を値決めすることではありません。よって、中には、外的な要因による動機付けを捨てて、内発的なものだけがモチベーションとなるようしなければならない。「承認」という行為は排除すべきだと言う人がいます。その思いに対しては、一定の価値は認めます。しかし、事を前に進めていくには、現実を受け入れなければなりません。もし「出世」に価値を置いている人を変えたいと思っている人がいるなら、それは、高尚でなんでもなく、自らのエゴの表出に過ぎないことを教えてあげなければなりません。ですので、まずは、「承認」を欲する人が存在している現実を受け入れることが重要です。それにどのように対処するかについては、いくつかのアイデアがあります。 一つは、そういったメンバーとの会話を持つことです。彼らに、いま、権力の階層を取り除こうとしていることを伝えます。しかし、それでも、組織には、スキルや知識、専門性、そして、物事に対する熱量などによって、自然発生的なヒエラルキーが存続することを理解してもらう必要があります。つまり、セルフマネジメント組織では、誰がどの分野に強いか、また、誰が複雑なプロジェクトを時間通りに完了させるスキルや経験を持っているかなど、皆が熟知しておかなければなりません。これら個人の強みを互いに認識し共有していくためには、ある意味、メンバー同士の「承認」が必要です。これなしには、セルフマネジメント組織は成立しないのです。 そういった「承認」を測るバロメーターの1つは、アドバイスプロセスに呼ばれた回数です。経験が豊富で、その道のスペシャリストと呼ばれる人は、当然、周囲から声がかかりやすいはずです。メンバーに加わった日が浅く、その実力も周りに知られていない場合は、声がかかる回数も少ないはずです。つまり、アドバイスプロセスに呼ばれる回数は、その人物の、長きにわたる組織への貢献を測る「物差し」であるといえます。 これはもう一つの方法です。多くの組織では、形式的な階層的手順がなくても、管理職の人たちがより多く貢献をしていることになっており、より多くの報酬を受け取っているはずです。したがって、給与は、依然として貢献度を測るゲームの要素の1つになっています。そして、それは、権力の拡大や部下の数を増やすといった不健全な側面を伴わずに行うことも可能です。エンパイア・ビルディング社が200人のサンプル採取から作ったレポートによれば、その組織の管理職は、部下への強制といったマネジメントの嫌な側面がなくても、良い環境で多くの収入を得ているとされています。 最近では、多くの組織が職位のカテゴリーに基づいた給与制度を導入しています。これについてもう少し詳しくお話ししましょう。なぜなら、これは非常に興味深いと思うからです。一部の組織では、まったくそのような制度を必要としていない場合もあります。たとえば、モーニングスター社の場合、メンバーは毎年、アドバイスプロセスを使用して給与の増加額を決定しています。給与バンドやカテゴリーのようなものは存在しませんが、それでも組織は完璧に機能しています。もちろん、職位のカテゴリーに基づいた給与体系を持った組織も、組織全体がうまく機能している場合がたくさんあります。組織ごとに、そのやり方が適しているわけです。 給与バンドを採用している組織の一つに、エンコード社という会社があります。その組織の給与システムにはいくつかのレンジがあります。一番下にあるレンジは、「ジョブ」と呼ばれています。特定の「仕事」に対して、実行した内容によって評価が決まります。「その仕事をしっかりこなした」という評価項目が、職務遂行の完了を意味します。その組織では、その呼称は忘れてしまいましたが、その定められた「ジョブ」の上にもう一段階高いレンジがありました。ここでは、「自分の仕事を完了した」だけでなく、更なる成長や発展、そして「イニシアチブを発揮して自らの限界を押し広げた」ことが評価の対象となります。具体的な要素としては、「自分の仕事を改善しようとする意欲がある」「組織の成長に貢献している」「変革のための主導的な行動を取っている」などが挙げられます。これはある種、上級レベルのコンピテンシーを示しています。さらに、そのもう一つ上のレンジでは、「自分の分野だけでなく、組織全体に貢献している」ことが証明される必要があります。例えば、あるマーケティング担当者が他の分野で必要な取り組みを見出し、アドバイスプロセスを開始した場合、それに多くのメンバーが参加し、成功を収めたとします。そのような行動は、その人が現在の階層での成長が見込まれ、次のレベルへの昇進が適切であるとみなされることを示します。 そして、彼らはさらにその上に4番目のレベルを持っています。それは、「組織を改善する方法を考えるだけではなく、組織の未来についても感知している」というものです。その対象者は「ソース」と呼ばれ、その視点から遠い未来を見つめています。彼らの場合、「ソース」の存在を知ったから、そのさらに一段階上のレベルを設定しました。いろんなやり方があると思いますが、このような階層を設定する場合、特に役立つと感じることがあります。それは、ある人が昇進したときに、それを祝うことです。昇進に関するメンバーの承認と、それの本人への伝達は、1対1か、アドバイスプロセスを通じて行うことができます。その「祝福」という行為はとてもシンプルな承認過程です。それに付随して給与の増額もあるかもしれません。しかし、より高いカテゴリーになるからといって、下位のカテゴリーのメンバーに対する権限を与えられたわけではありません。当然、彼らに何かを強制することはできません。依然としてすべては、同じゲーム・ルールやアドバイスプロセスによって拘束を受け続けます。与えられたのは、単に上級職であるという「承認」のみです。 そして最後は、緩やかなメンタリングの方法です。対外的に、役職などの肩書を自由に選べるやり方があります。セルフマネジメント組織で働く多くの人は、内部で細かい役割について話している代わりに、対外的な「タイトル」を持っていない事実に気づくことでしょう。外の世界は、自社の担当が、ただの営業副社長なのか、それとも、その上に「シニア」の肩書が付く副社長なのかを知りたがっているものです。そのため、私の知っている組織では、対外的な名刺に嗜好を凝らし、人によっては年齢相応のタイトルを付けるなどして対応しています。ただし、突拍子もない肩書にならないよう、アドバイスプロセスを使って、各々の肩書を決めています。こうすれば、意味が不明であったり、完全に浮いてしまったりした役職名をつけることを防げます。それは、また、そこで働く人たちの自尊心をケアする方法でもあります。 同様の目的で別のやり方をしている組織があります。そこでは、誰かが自ら人事部のような役割を引き受け、メンバーに、「あなたならこういう肩書はどう?」という風に、メンバーに肩書を与えているというものです。これは、伝統的な組織によくあるような、名刺の肩書を作っているようなものです。この肩書は、もしメンバーが転職を考えた場合にも有効に働くはずです。そして、これは、従兄弟や知人たちに対しても使うことができます。「私は○○という会社で副社長をやっています」という風にです。それが、自組織内で通用しているかどうかは別問題ということです。 つまり、メンバーが慣れるまでのしばらくの間は、「承認」システムも必要であるということです。1年から4年といった時間が経過すると、おそらく「承認」は重要ではなくなってきます。美しい組織や深い人間関係に浸ることから得る満足感が大きくなってくることで、メンバーは、もう二度と伝統的な組織に戻りたくないと感じるようになります。昇進や、従兄弟に対しての見栄は重要でなくなってきます。それが必要とされるのは一時的なものです。ただ、最初はそれが必要だということだけはしっかり認識してください。そして、それに対処できるようになっていきましょう。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1