風力発電で睡眠障害? 「関連」と「因果関係」の違い 続き

 先日、山形の鶴岡の議会でも風力発電と健康影響に関する質疑があったが、問題提起した議員の答弁には誤りが目立つ。

 第一に「2009年、米国ジョンズホプキンズ大学のニーナ・ピアポント医学博士」と紹介しているが、同大学はピアポントの学歴であって勤務先ではなく、「風車病」のは本来の「研究」とは程遠い査読無しの自費出版本であること。また、「風車から1.5から3キロにお住まいの10家族38名の健康被害をインタビュー」は電話のみで問診無し。対象者の選定が恣意的で調査過程が不明な上、サンプル数も僅かで科学的でないことは、以前にサイモン・チャプマンとフィオナ・クライトンの2017年の学術論文から当該箇所を仮訳したとおり。ピアポントを権威づけること自体が間違っている。

 次に、2016年の「大分県立看護科学大学 影山隆之(かげやまたかゆき)教授の研究グループによるもの」は「風車の低周波音による直接的な健康影響が示された、疫学調査」ではなく、これも先の記事で指摘した2018年のと同様に「関連」性のみの報告。英文でしか確認出来ないが、“Regardless of these limitations, the obtained data show the association of outdoor WTN exposure with self-reported insomnia.” (これらの制限に関わらず、得られたデータは自己報告の不眠症と屋外の風車騒音暴露との関連を示している。)とか、“No evidence was obtained concerning the adverse effects of WTN on physical/mental health on the basis of self-reported symptoms.”(自己報告の症状をもとに健康/精神衛生における風車騒音の悪影響についての証拠は得られなかった。)などと書かれている。

 幸いにも、同議会では市の担当者の回答が「事業者からは各地区の調査結果について環境省において参照値としている値41デシベルを超過する箇所もございましたが、工事前の風車近傍での低周波音と同程度であることから風車の稼働による影響は小さいものと考えられるとの報告をいただいておるところでございます」とか「なお鶴岡八森山風力発電事業における低周波音に関する健康への影響について、地元自治会に確認したところ現段階では苦情などは寄せられていないと伺っております」といった冷静なもの。
 
 議員本人の早とちりなのか、確信犯的な学者を含む反対運動の影響なのかはともかくとして、議会や報道など周囲や社会が絶えずファクトチェックを重ねることでしか、この問題の解決のしようがないように思う。


参考:

風車の低周波音と健康被害についてー12月一般質問
http://www.kusajima.org/6458.html

Exposure-response relationship of wind turbine noise with self-reported symptoms of sleep and health problems: A nationwide socioacoustic survey in Japan
https://www.noiseandhealth.org/article.asp?issn=1463-1741;year=2016;volume=18;issue=81;spage=53;epage=61;aulast=Kageyama


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