風力発電で睡眠障害? 「関連」と「因果関係」の違い

 国内各地の風力発電事業計画をめぐり、主に反対派が挙げる理由には風車と健康影響、とりわけ睡眠障害があるが、根拠とする2018年の論文に示されているのは、「まとめ」にあるように「風力発電施設から発生する騒音(可聴音)は条件によって健康影響(睡眠障害)のリスク・ファクターとなる可能性が高い」という「関連」であって「因果関係」ではない。

 その証拠に、「考察」は「疫学研究デザインが横断研究であり,騒音曝露情報等(原因)と健康影響(結果)との因果関係については言及することはできず,関連の可能性を明らかにするのみであった」と明確で、「今回のアンケート調査では回収率が28.3%と低い」とか「風車曝露情報として最近接風車から居住宅までの距離について,対象者が所属する地区公民館の位置とした。そのため厳密に対象者の居住宅から最近接風車までの距離ではなく,今回の風車からの距離という距離情報には不確実性が残ると考えなければならない」との記述もある。

 同論文は、あくまでも「アンケート項目は個人の基本属性(性別,年齢,身長,体重)に加えて,家族構成,住居・居住生活,生活習慣,社会経済的因子,健康状態,騒音へのアノイアンスの程度,風力発電施設設置への態度や景観に対する反応に関する質問から構成された」ものであって、風車から一定の距離にどのような健康状態の住民がいるのかを幾分示すことは出来ても、質問への回答が必ずしも本人たちの睡眠障害など健康影響に直接結び付いているわけではない。

 本来、因果関係を明らかにするのであれば、合わせて住民らの病歴等の有無を示す健康記録の提出が求められただろうが、端からそういう調査ではなかったということ。誤読であれ、曲解して風車による健康被害だと決めつけるなら、他の病気等を見逃してしまう危険性さえある。「風車騒音と健康影響」の調査報告は、国内外とも風車による健康への直接的影響は見られないという結論。「まだ分からない」のではなく、過去10年程で明らかになったことは非常に多い。日本の環境省の見解にもあるように、概ねアノイアンスとノセボ効果で説明がつく。


参考:

風力発電施設による超低周波音・騒音の健康影響
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh/73/3/73_298/_pdf/-char/ja


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