危機は待ってくれない 再エネの「社会的受容」に必要なこと
人類が引き起こした、より正確には化石燃料依存の世界経済が招いた今日の気候や生態系などあらゆる危機は、待ってはくれない。パリ協定のもとで気温上昇を1.5℃以下に抑え、不可逆的な連鎖反応を食い止めて被害を緩和させるには、最大の要因である化石燃料の燃焼を止める他ない。対策が遅れる程、新型コロナのパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻の戦争のように問題は複雑化し、連鎖していく。にもかかわらず、世界各地で化石燃料への新規投資が今日も続いている。
ちょうど一年前の国連のグテーレス事務総長による演説の一部を抜粋:
同じくグテーレス事務総長による昨年秋のCOP27開催後の演説から抜粋:
一方で、世界で第3位の経済大国で第5位の温室効果ガス排出国でエネルギー資源ほぼ全量を輸入頼みの日本では、化石燃料への投資の問題提起や反対するメディアの報道が余りにも少なく、反対する市民の声も日常にかき消される程に小さい。国内の風力発電など再エネの普及をめぐっては、戦争やパンデミックから切り離され、一向に解消しない反科学やNIMBYの問題も立ちはだかっている。解消しないのには、それなりの理由や原因がある。それは、より身近なところに目を向けると見えてくる。
あえて苦言するなら、社会学者らが提唱する再エネの「社会的受容」は、対象の地域住民に対して角を立てない物言いのつもりなのだろうが、研究者ら自身が根本的な問題と対峙しないまま、解決には取り組んでいるかのように振る舞い続けているようにしか見えず、コミュニケーションが破綻している。しかも「グレーゾーン」という言葉自体が「脱法」的意味合いが強く、脱炭素の「ニュートラル」にすら及ばず、世間に否定的な印象をよりいっそう与えるだけ。いわば反科学やNIMBYを助長するような表現であり、そのような感情が滲み出ている。心理的作用によって、無視出来る程の僅かな影響まで増幅させてしまうなら、事業計画を審査する厳格な環境アセスの意味もなくなる。
つまり、「社会的受容」が成立するには、あらかじめ住民らの不安や恐怖、憎悪の要因である「風車病」「温暖化は嘘」などの疑似科学やデマを一掃しなければならない。また、仮に施設稼働後に大なり小なりの問題が発生する可能性も、「グレーゾーン」のような曖昧さではなく、事業者や行政の義務や責任を明確にしておけば、混乱せずに済む話。「結論」よりも「過程」が大事。
先のグテーレス事務総長の言葉にあるように、現実では化石燃料が脅威であり、気候や生態系は危機で、あらゆる場所や地域で毎年のように発生している甚大な被害は、火を見るよりも明らか。それらをこの社会特有の「なあなあ」では説明も対処も出来ないのも明々白々。すでにゾーニングの協議など社会学者ら研究者自身が助言する立場にいるのだから、科学や公正、交差性や多様性について、本来どう伝えていくべきなのかくらいは分かっているはず。どんな研究であれ、後ろ向きや脇にそれるようなのではなく、生活者すべてに前向きな言葉や思考を与えるものを望む。
繰り返しになるが、危機は待ってくれない。化石燃料の燃焼を止めるしか、もう掘り起こさずに地中に留めておくしかない。再エネ転換を急ぐこと。一日でも一分一秒でも早く。そのための議論に蓋をしないでほしい。
参考:
COP27閉幕にあたってのアントニオ・グテーレス国連事務総長声明 (エジプト シャルム・エル・シェイク、2022年11月19日)
https://www.unic.or.jp/news_press/messages_speeches/sg/45560/
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告書の発表に関する記者会見に寄せるアントニオ・グテーレス国連事務総長ビデオ・メッセージ(ジュネーブ、2022年2月28日)
https://www.unic.or.jp/news_press/messages_speeches/sg/43499/
「再エネの影響は白か黒かでなく、グレーなまま信頼感で乗り越える道も」、名古屋大・丸山教授
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/feature/00007/00073/?ST=msb
風力発電所による近隣住民への影響に関する社会調査 本巣 芽美, 丸山 康司https://www.jstage.jst.go.jp/article/jwearonbun/44/4/44_39/_pdf/-char/ja
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