風力発電 トキや過疎地を救えるか
石川の能登半島で進行中の複数の風力発電事業計画にも、地元から反対の声が上がっている。その運動の中心にいる団体のサイトの「私たちについて」には「風力発電に全面的に反対なわけではありません」との断りはあるが、いろんな理由を見つけて反対していることには変わりない。報道が一向に掘り下げない分、自ら検証するしかない。
例えば、「能登の人たちは自然の中で質素に暮らしており、現在の発電量で誰も困ってはいない」とか「不必要な活動をして、大きなエネルギーを消費したい人たちが、質素な暮らしを続ける能登の人たちの、今まで守り継いできたかけがえのない里山里海を壊す事業を押し付けてくる」というのは、どう受け止めればいいのだろう?
現在は、どの自治体も「改正温暖化対策推進法」のもとでエネルギー計画を策定していて、発電事業者は、風力発電では「風況」「接続」「経済性」などを求めて進出してくる構図がある。2050年カーボンニュートラル実現に向けて、使用する電力を化石燃料から再エネへと切り替えが進む中、自治体と事業者と住民とのあいだで共通の目標や利益・便益が生まれる。公共インフラが事前の協議や議会での審議、説明会といった手続き無しに進められることなど、まずありえない。
「脱炭素」化が出来なければ、経済活動をはじめ、地域全体の存続が危ぶまれることになる以上、住民が「自然の中で質素に暮らして」いようがいまいが、「 現在の発電量で誰も困ってはいない」からどうこういう話では、すでになくなっている。「不必要な活動をして、大きなエネルギーを消費したい人たち」は誰を指すのか、「かけがえのない里山里海を壊す事業を押し付けてくる」とは何を指しているのか、主張そのものが稚拙で、現実と乖離している。
さらに、「電力を必要とする人が必要な分の小さな風力発電機を作っていけば、環境負荷もそこまで大きくならずに済みます」というのは、思慮が浅過ぎて、ダメ押しにもならない。「小さな風力発電機」は環境アセス対象外なので、それが逆に問題になっている。「環境負荷」が減るどうかは、風車の数や設置場所にもよる。端から他人事のようで、発電の効率まで否定して、どうしたいのか?
反対運動には、特別天然記念物トキの保護活動も含まれる。風車の建設や稼働によるトキへの直接的な影響は前例が無くて分からなくても、近年はAIや監視カメラによるバードストライクを回避する技術があるので、まずは、実証や導入を念頭に事業者や行政に掛け合ってみればいい。「一石二鳥」という表現が適さなくても、双方の技術や知恵の「相乗効果」は期待出来る。
生息環境の植生も含め、温暖化による影響も考慮しなければ、実質的な保護活動にはならない。また、放鳥「モデル地区」を設けることで、田の管理が高齢者に負担を強いる結果となっては、それこそ元も子もない話。トキは残っても人がいなくなるし、人がいなくなれば、「里山里海」は荒れるだけ。そのような「負のループ」を断ち切るためにも、一度、問題や課題を整理すべき。
参考:
not 能登の風力発電を考える
https://furyoku.group/
【トキとの共生・石川】大規模風力発電 2023年3月5日
https://www.chunichi.co.jp/article/647553
トキ放鳥 能登半島地域に「モデル地区」9か所で環境づくり 02月03日
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kanazawa/20230203/3020014162.html
石川県 トキの歴史
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/sizen/toki/top-kakawari.html
日本気象協会、AI鳥類識別システム「AI Bird」を開発 ~AIを使ったオジロワシとオオワシを他の鳥類と見分ける技術にて 国内希少野生動物と風力発電事業の共存に貢献~ 2021.01.19
https://www.jwa.or.jp/news/2021/01/12092/
This AI optical technology cuts wind turbine eagle deaths by 82% Michelle Lewis Jan 29 2021
https://electrek.co/2021/01/29/wind-farm-eagle-deaths-cut-by-82-percent-ai-optical-technology/
地球温暖化対策推進法について 2022年5月19日
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/20220519-topic-24.html
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