風力発電 周辺住民の課題を挙げるなら

 二つの風力発電事業計画が持ち上がっている愛知の設楽町では先日、対象地区の住民らが「建設予定地から1.3キロの場所に住宅や事業所があり、自然環境の破壊や低周波音による健康被害のおそれがある」などを理由に、町に対して反対するように要望。昨年夏の町議会の議事録を見ると、過去にも同様の事業計画で住民らの反対によって中止になった経緯があり、今回の請願は「全国各地における風力発電被害の実態、学者の科学的知見による解説、風力発電先進地ヨーロッパ、そして国内の情報を幅広く集め議論した結果、沖・駒地区の住民は全員一致で反対の結論」とのこと。

 それには「懸念事項として、騒音・低周波による健康被害。農業・畜産業・野鳥・野生動物・景観への影響。森林伐採、道路拡張による土砂災害や水源の汚水。台風、落雷による火災・破損事故。観光客・登山客減少、離村、住民減少、不動産価値下落」、さらに「風車建設予定地付近の民間事業所と風車との距離、民家まで1.4キロ、保養施設である駒ヶ原山荘1.3キロ、麻野間園芸1.4キロ、竹内牧場1.5キロ、小林陸運2.6キロ、県営段戸牧場2.7キロ、名倉カントリークラブ3キロ、名倉保育園・小学校3.6キロ。建設予定地の南側豊川水源域は、崩壊土砂流出危険地域に指定されている。北側は地域住民の水源」とある。

 しかし、これまでも何度も書いているが、これらの「懸念事項」を調査や審査するのが環境アセスの目的なので、まずは計画を受け入れたらいい。拒否するのは、客観的な評価が出るのを待ってからでも遅くはない。企画ダム対策課長の説明で「事業者が沖駒区に対して8月8日に地元説明会の開催を申し込んだところ、開催に先立ち7月27日に沖駒区の皆さんが自主勉強会を開催し、その場で風力発電反対の決議がなされ、説明会の開催は中止」というのでは拙速過ぎて、地域として何一つ学べない。「風車病」騒動以降、今も時が止まったかのような光景が各地で目につく以上は、知識のアップデートは事業者や行政はもちろんのこと、周辺住民側の課題でもある。それには、他の地域の住民との情報共有の機会を、もっともっと増やすしかない。風車など再エネとの共生で成功している自治体は全国各地にあるのだから、オンラインでもどこでも積極的に交流すればいい。

 今回の請願を紹介した議員の言葉も気にはなる。「現在、地球温暖化や二酸化炭素削減の考え方には、科学者の間で異なる見解があることも事実です。真理というものは分からないものです。この流れが、世界をどこにいざなおうとしているのでしょうか。果たして自然を大きく壊して造られた風力発電が、後世の人々に何をもたらすのか」というように、温暖化懐疑論が見え隠れする。「異なる見解」は一般に科学者以外の話であって、人為的要因に「疑いの余地はない」というのがIPCCの最新報告。化石燃料依存の世界経済が引き起こした前代未聞の危機が、まさに「自然を大きく壊して造られた」結果なのだから、再エネ転換が急務で、その逆は無い。

 また、予防原則の理由に「低周波音と風力発電の因果関係の立証は難しく、科学の見解の不一致により、紛争解決がスムーズにいかなくなることもあります」というのもミスリードで、風車騒音と健康被害の因果関係は見られないというのが過去10年以上の科学的知見なので、辻褄が合わない。むしろ、気候や生態系、エネルギーや安全保障などの「危機」拡大から人々の生活を守るための社会インフラとして、それぞれの地域で風車を建てることこそが「予防原則」に当たる。このくらいの反論は、議会でも説明会でも出来るはず。「風車病」騒動は、本来であれば、すでに終わった議論なのだから。

参考:

風力発電所建設反対 愛知県設楽町の住民グループが要望書提出
https://www3.nhk.or.jp/tokai-news/20230216/3000027672.html

令和4年第3回設楽町議会定例会(第2日)会議録
https://www.town.shitara.lg.jp/uploaded/attachment/2791.pdf

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