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今年もブロムシュテットは微笑む。観客は息を呑み、最後は涙する。

今年もNHK交響楽団の10月定期はA,B,Cともヘルベルト・ブロムシュテット指揮。また来てくれてありがとう! 




新装開店NHKホール。


オーケストラ退場後、マロと郷古さんに支えられて出来たブロムシュテット様。負担をかけてすみません。

昨年、2年ぶりに来日したブロムシュテットを見て、あまりに嬉しくて、「ブロムシュテットはかぷかぷわらったよ」という間抜けな記事を書いた。
そして1年、今年も来てくれるかな、とずっとドキドキしていたら、今年も来てくれた! ゲスト・アシスタント・コンサートマスターの郷古廉さんのツイートで、ブロムシュテットのリハーサルが始まった、と読み、テンション上がる。

昨日と今日はAプロ、マーラーの交響曲第9番。昨晩行ってきた。休憩なしの1曲プロなので、絶対遅刻できない、と早目の電車でNHKホールへ。入り口で「チケット譲ってください」という札を持って立っている人とかもいる。満席だ。知り合いの顔も散見。
18時開演だが、オケ入場ちょっと遅め。そして入場途中、拍手が急に大きくなった、と思ったら、コンサートマスターのマロ(篠崎史紀)さんに介添えされ、ブロムシュテットも一緒に入ってきた。指揮台に上がるところまでマロさんアシスト。そして椅子に腰かける。とうとう椅子に座って指揮するようになったか、って、95歳ですから! マーラ―80分かかりますから! というかブロムシュテットさん、夏に転倒して、公演を幾つかキャンセルしていたそうで(知らなかった...)、それでも日本まで来てくれた、ということには本当に感謝しかない。
そして、座ったと思ったらすぐ指揮が始まった。いつものように、指揮棒なし、長い指をしなやかに振って、マーラーが鳴る。ブロムシュテットがマーラーを振ることは割と珍しく(わたしはたぶん初めて聴く)、最初はオケと指揮者がマーラーに慣れてないように感じたが、あっという間にそんなことはどうでもよくなった。テクニーク的にはもっと秀逸な演奏もどれだけでもあるし、情熱的とか、エネルギッシュとか、様々な形容詞のつく演奏もいっぱいあったと思う。でも、昨日のマーラーはどれとも違う。心の深いところから鳴り響く音楽が、指揮者とオーケストラの親密な関係性のもと、極限まで張り詰めた緊張の中でこんなに美しく響くのか、という驚き。
あんなに背が高く颯爽としていたブロムシュテットさんが、背中を丸くして腰かけ、スコアをめくりながら手を揺らす。抑揚をつけるときは腕が高く上がる。その静かな動きに、N響のすべての奏者が集中して付いて行っている。ヴァイオリン8プルトずつの巨大な編成(対抗配置)で、木管倍管、打楽器多数、巨大なオーケストラなのに、がなりたてるところがない。それを満席の観衆がじっと眺める。どの楽章も最後の余韻まで耳の中で震えている。近年のブロムシュテットは、速い演奏が多いという印象だったが、昨日のマーラーはかなり抑えたテンポで、ゆるやかに流れる。永遠に終わらなくてもいい、と思えるような音の連なり。
1楽章から泣きそうだったのが、4楽章で何かこみ上げてくる感じ。マーラーの白鳥の歌、ここに極まれり、というのをマエストロとオーケストラが静かに表現する。こんなマーラー、聴いたことがなかった。
そして、最後、静かに曲が終わるのを、すべての観客が固唾を飲んで見守る。オペラグラスで指揮者をガン見して、静かに腕が降りていくのを、息を止めて見つめる。両腕が体側まで完全に降りて、指揮者がこれで終わり、という身振りを示すその瞬間までの会場の沈黙を、きっと永遠に忘れない。
最近は禁止状態だった「ブラヴォー」の声がかかった。その後は万雷の拍手。
オケは一旦立って、マロさんの指示で全員座り、指揮者の指差しで何人かの首席奏者が立って喝采を浴びる。でもそんなに長々とスタンディングはなく、全員また立って、マロさんがブロムシュテットさん抱えるようにして退場、トップサイドの郷古さんが観客に向けてお辞儀して、オケも解散。オケが退場している途中も拍手鳴りやまず、マロさんと郷古さんに介添えされながら、ブロムシュテットさん、2回も舞台に戻ってきてくれた。負担をかけて申し訳ないけど、ホール中に幸福が満ち溢れている感じ。
本日のAプロも無事終了。
今週は21日(金)と22日(土)にCプロ、シューベルトの交響曲第1番と第6番。来週は26日(水)と27日(木)にサントリーホールのB定期でグリーグのピアノ協奏曲(ピアノ:オリ・ムストネン)とニルセンの交響曲第3番「広がり」(ソプラノ盛田麻央、バリトン青山貴)。昨年は所沢公演とかあったけど、そういう巡業は流石になし。
最後まで体調を崩されず、元気なお姿が見えますように。NHKホールだと客席から舞台が遠すぎて、ブロムシュテットさんは入退場の時以外は背中しか見えなかったので、サントリーホールであの微笑みが見られますように。

#音楽会 #NHK交響楽団 #ヘルベルト・ブロムシュテット #NHKホール #マーラー #交響曲第9番 #篠崎史紀


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