見出し画像

獅子文六、そして偕成社ジュニア版日本文学名作選

Facebookの4年前の日記が出てきたので、若干改稿して再掲。

先日、イオンモールの蔦屋書店に獅子文六『コーヒーと恋愛』(ちくま文庫)が平積みしてあって、帯に「昭和の隠れた名作 ご存じですか?今年1番面白い小説 早くも決定しました」(表)「こんなに面白い小説が何十年も読めなかったなんて信じられない」(裏)などと書いてある。
そこまで言われたら読まないわけにいかないでしょう、と持ち帰り。
確かに面白い小説でしたが、今年1番は言い過ぎかしらん。新劇出身で、今はテレビの脇役女優として人気のある主人公坂井モエ子と年下の夫(新劇の舞台美術家、薄給)と、若い新劇女優、そしてコーヒーを淹れるのが天才的に上手いモエ子と共にコーヒーを楽しむ会を開催している年上のおじさんたち。その人間模様(雑なまとめ)。
昭和の風俗小説だわよね。でも、それぞれのキャラが鮮やかに立ちのぼり、読みながら登場人物に肩入れしたり愛想を尽かしたり。すかっとしたエンディングもよかった。
しかし獅子文六...今どき読まないよね。大型書店で平積みされていなかったら気づかなかったよね。
幼稚舎から慶應。慶應の経済を中退後、演劇を学びにフランスに渡り、フランス人の妻を娶って帰国、帰国後は岸田國士、久保田万太郎と共に文学座を設立。
「近年は著書のほとんどが絶版となり、生前の影響力・人気・知名度からは意外なほど「忘れられた作家」となっていたが、中野翠、小林信彦らが文六の再評価を促す文章を発表」(Wikipediaより)
昭和の風俗小説を読む人なんていないのかな。
で、懐かしくなって、図書館で、子どもの頃に何回か読んだ『悦ちゃん』を借りてきた。昭和11年の新聞小説。偕成社ジュニア版日本文学名作選。懐かしい(後述)。
主人公の名前への親近感がきっかけで読んだのだけれど、痛快な小説だった印象。
今読んでみると、戦前の東京の風俗とブルジョワの生活が克明に描かれている。小学生の自分、文末の注釈を読みながらこんなもん読んでたのかい、と妙に感心。しかしかなーりストーリーは頭から抜けている。悦ちゃんの父碌さんの再婚の経緯をかなりまっさらな気持ちで読み進め中。そもそも、碌さんのあまりの貧乏っぷりにくらくら。これは生活保護レベルだよ。そして、後半の碌さんの転落ぶりに唖然とする。こんなに悲惨だったっけ? よくも昭和の小学生がこれを平然と読んでいたな、と逆に驚く。

で、偕成社ジュニア版日本文学名作選。
赤い表紙のハードカバーの本。わたしは日本文学はこのシリーズで随分読んだよ、懐かしい。下村湖人『次郎物語』(全5部)、川端康成『伊豆の踊子』(所収の「乙女の港」の方が懐かしい、これも再読してみようか)、伊藤左千夫『野菊の墓』、夏目漱石『坊っちゃん』『吾輩は猫である』(上下)、壺井栄『二十四の瞳』、山本有三『路傍の石』はあきらかにこの全集で読んだ。他にもこの全集に入っていて読んだ作品色々。
比較的、今でも知られている作品が多いけれど、野上彌生子が入っていたのは気づかなかったし、畔柳二美という作家の名前は巻末の広告で初めて知った。大佛次郎の『鞍馬天狗』が入っているのも昭和的だ...。

#獅子文六 #コーヒーと恋愛 #悦ちゃん #偕成社 #ジュニア版日本文学名作選 #ちくま文庫

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?