ハチミツとクローバー

『ハチミツとクローバー』羽海野チカ作・集英社クイーンズコミックス・既刊6巻まで

5巻だか6巻だかが新刊で出たときに、電車の中に広告が出ていたのである。
それまで、そういう名前の漫画があることすら知らなかった。
レディスコミックって手に取ったこともないしさ(掲載誌は「YOUNG YOU」)。
髪の毛のふわふわ長い女の子の絵で、美大を舞台にした恋愛漫画らしい、ということだけがその広告からわかった。普通、電車の中に1つの漫画単独の単行本の広告なんて出ないので、結構印象的だったが、それ見ただけで読もうとは特に思わなかった。

それから、春先に「AERA」を読んでいて、ヨン様人気に派生した記事として、眼鏡をかけた男性の人気が出てきている、というのがあって、その中に「ハチクロ」の真山君が紹介されていたのである。スガシカオの顔写真とかと並んでいて、なんとなく格好よかった。

あとは忘れたけれど、2,3箇所でハチクロの名前を聞いているうちに、なんとなく読んでみたくなった。漫画って、社会現象になったり、ドラマの原作になったりしない限り、漫画雑誌を読まない人には縁のない世界である。そうした中で、複数回、名前を聞く、というのはそれだけでひとつの力を持っている証拠である。

そうしたら、近所の友達が全巻所有していたので、思ったよりあっけなく、わたしはハチクロを手にすることが出来たのであった。

「この恋は空の色に似てるね」というコピーが付いたこの作品。
すれた心で読むと「おめーら何歳だよ!」と言いたくなる純真さ、プラトニックさ。
作品冒頭で最年少のはぐみが18歳、それが最新刊時点で既に22歳になろうとしていて、他の登場人物たちも相応にふけてきているのに、何年たっても少年少女の瞳をしている。

就職して忙しげにしている真山も含め、みんな学校の周りになんとなくいて、なんだか妙に狭いコミュニティの中で居心地よげにしている。
幸せそう。モラトリアムの中にいるようで、でもみんな何かが欠けた家族環境の中にいるようで。
何かを見ないようにしているのを、作品の中で触れないようにしているから、とてもきれいに見えるのか?
わたしたちは、作者が書いたところだけを見て、恋愛の切なさとか高揚感とか、美しさなんかに心を奪われていればいいのかな。
どのキャラも同じくらい好き。誰の恋も同じくらい純粋できれい。
(花山先生は?)
どうもなってほしくないけれど、どうにかなってほしい。
みんないとしい、みんな幸せになってほしい、そんな、物語。
これはユートピア(どこにもない場所)の物語なのかな。

(2005年8月5日のブログ記事の転載)

#読書 #羽海野チカ #ハチミツとクローバー #はぐみ

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