晴天爰然/enen

(せいてん えねん) 高校三年生

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(せいてん えねん) 高校三年生

最近の記事

[小説]そして2人は

「お前本当に別れて良かったのかよ」 「いいんだよ、もう終わったんだから」  俺はビールを飲みながら言う。高校時代からの友人とこうして酒を嗜めるというのは、とても感慨深いというか、エモいというか。 「望《のぞむ》、俺なんかがアドバイスすんのもなんだけどよ、アイツはいい奴だろ。二人の相性も最高だったじゃんか」  酔ってきたのか、少し呂律が回らなくなった亮介が殻だけ入ったボウルに手を伸ばしたので、枝豆の皿を差し出した。 「そっちは殻だよ」  亮介はずっとクールキャラだったから、少し

    • [小説]結局コーヒーなんだから

      第一章 あの八月、猛暑に皆が弱音をあげていたあの日、ホットコーヒーを頼まれた時は思わず聞き返してしまった。 「ホットコーヒーでお間違いないですか?」 周りはアイスクリームを食べているというのに。温かい飲み物で一息つくなんてことをしたら熱中症になってしまう。 「はい、ホットコーヒーで」 その男性はもうすでに財布からお金を探し始めているので、仕方なく四百円です、と言いながらお湯を沸かすポットに水を溜め、スイッチを押す。沸くまで少し時間がかかるため、その間に会計を終わらせ

      • [小説]痛くも痒くも甘くもない/#5

        金曜日 未来の話 「未来の話をしましょう」 一人暮らしをはじめて自分でお弁当を作るようになったら、毎日献立を考えるのが大変でいつも似たようなお弁当になってしまいそうだなと思っていると、るなが言った。 「それは誰のセリフ?」 「主人公。大好きだった彼を失って自分も消えてしまいたいとは思うんだけど、同じように自傷行為をしようとしていた女の子にそう言うの」 今日はるなの好きな恋愛映画のプレゼンの日だった。プレゼンとはいっても、ただるなが好きな映画の話をするだけなのだが。

        • [小説] 檻の中のライオン

          お姉ちゃんがお母さんを殴った。それはまるで、長い間柵に閉じ込められたライオンが檻を壊して飛び出したように。 「ちゃんとしつけられているので、撫でても大丈夫ですよ。」と言われたライオンを撫でると、しつけなんてされていないのではないかというように噛まれてしまった。 ドアの閉まる音がいつもより何倍も大きく聞こえる。大きくなったライオンの背中を、ただ見つめることしか出来なかったのは、父、母、そして私。   ライオンの飼育員だった。 第一章    ——ねえ、運命って信じる?  

        [小説]そして2人は

        マガジン

        • [連載]痛くも痒くも甘くもない
          5本

        記事

          [小説]痛くも痒くも甘くもない/#4

          木曜日 どっち派? 毎日眠りそうになりながら受ける授業は、果たして私の身になっているのだろうか。眠りかけの私が引いた線が何本も書かれたノートを見ると思う。 「るな、昼食べないの?」 「ごめん日直だった」 日直の仕事とはめんどうなもので、黒板の文字を消したり、日誌に今日のできごとを書いたりしないといけない。大したこともないのに、何を書けばいいんだろう。その仕事に追われていたせいで、いちかのことを待たせてしまったみたいだ。 「あ、今日いちご入ってる。ラッキー」 そう言い

          [小説]痛くも痒くも甘くもない/#4

          18歳、私のココロ

          こんにちは、晴天爰然(せいてんえねん)です! 9月24日で18歳になったということで、17歳から18歳になるリアルな気持ちを綴っておこうと思います。自分のことについて書くのははじめてなので少し緊張しています( ; ; ) まずは軽く自己紹介から。 現在高校三年生の晴天です、普段の投稿からもわかると思いますが、小説家を目指して日々創作活動をしています。かわいいものが大好きで、特にアイドルは大好物です。特定のアイドルというより、日本にある「アイドル文化」が大好き。もし違う人生

          18歳、私のココロ

          [小説]痛くも痒くも甘くもない/#3

          水曜日 二番手男子 チャイムと共に教室を飛び出す男子生徒たち。その後ろについていくように、私たちも教室を出た。 今日の購買はメロンパンが売り切れていたので、仕方なく焼きそばパンを買ったけど、メロンパンを食べるつもりでいたせいでうまく喉を通らなかった。お茶で一生懸命流し込んでいると、るなが漫画から顔を覗かせた。 「焼きそばパン嫌いなの?」 「いや、もう完全にメロンパンの口になってたから」 今日は少女漫画好きのるなが大量におすすめの漫画を持ってきたので昼休みに読もうと約束

          [小説]痛くも痒くも甘くもない/#3

          [小説]痛くも痒くも甘くもない/#2

          火曜日 子どもの頃の勘違い 体育館のギャラリーにいると、昼休みの生徒の賑わいが聞こえる。特に運動部の子たちはお昼を食べてすぐに体育館に来るけど、運動音痴の私にはどうしてそんなことをするのかわからない。きっと目の前に座っているいちかも、わかっていない。 いちかは今日は購買で買ったメロンパンを食べている。私はわりと大食いなので、メロンパン一個などでは腹は満たされないため、今まで購買は利用したことがない。 「ねえ、いちかってさ、子どもの頃勘違いしてたことってある?」 「え、

          [小説]痛くも痒くも甘くもない/#2

          [小説]痛くも痒くも甘くもない/#1

          月曜日 こんな生活 チャイムの音と共に教室を飛び出す生徒。 手にはお弁当を持っていて、朝の登校ではとにかく揺らさないように、中身を崩さないように、と考えていたくせに、今はきっとそんなことも忘れていち早く外の空気を吸おうとしている。 扉を開けると、屋上にはまだ誰も来ていなくて、お気に入りのグラウンドの見えるベンチに座る。 と、いうのはドラマの中のお話。 実際に今の時代にこんなことをするのは、ほとんど不可能である。私調べだけど、学校の屋上は、柵の高さが何メートルで…とか

          [小説]痛くも痒くも甘くもない/#1

          [小説]くだらない質問させて

          SNSのアイコンを変えると、なんだか自分が入れ替わったような気分になってしまうのは、きっともう既にアカウントが私を擬態しているからだろう。 ネットから拾ってきた、頬杖をしてカメラを見ていた少女は紛れもなく私を装っていた。そんな彼女は今は消えて代わりに誰かもわからない女性の後ろ姿がその役割を担っている。 「アイコン変えたね」 メッセージが届いてすぐに既読を付けてしまって、反射的に一度アプリを閉じてしまった。既読が早いと暇な人だと思われてしまいそうであまり好かない。すでに既

          [小説]くだらない質問させて

          [小説]MVとPVのちがいも分からない

          最初は好きな色がメンバーカラーと同じだったから、なんとなく応援するようになった。人って好きになろうと思えば、簡単に人を好きになれるもんなんだと思った。 ううん、好きになるどころではない。毎日この人と結婚したいと思うほど、かなり狂わされていた。それは彼に魅力があるから?それとも私の意思でそうなっているの? どちらでもいいのだけれど、とにかく私は、周りが推しやらオキニやらがいるのが羨ましくて、自分はこの人を好きになるぞと心に決めた人を、決意の通りに好きになって思った以上に嵌っ

          [小説]MVとPVのちがいも分からない

          [小説]一途に

          彼はいつも小説を片手に生活していたので、私もそうしてみた。彼がお昼に自販機でぶどうジュースの紙パックを買ったなら、百円を握り締めて階段を駆け下りた。 始まりは小学生のときから。本当に一目惚れだったのかもだったのかもれないし、何か優しい言葉をかけられてすんなり落ちていったのかもしれないけれど、小学生の頃の恋愛の感覚というものがすっかり抜け落ちてしまった私にとってそんなことはどうでもよかった。ただ小学生の頃から好きだという事実があれば、これから現れるかもしれない新規の、恋敵とす

          [小説]一途に

          [小説] 記臆

          くるみちゃん、あなたと離ればなれになって、私はずっと胸騒ぎがするの。一人になった帰り道。一人になった昼休み。わかってはいたけれど、私いつもくるみちゃんと一緒にいたから、あなたがいなくなったらひとりぼっちになってしまうんだわ。 私、くるみちゃんと秘密のお別れ会をした日、私がいなくなっても頑張ってねなんて言ったけれど、私の知らないところでくるみちゃんが努力して私の全然知らないくるみちゃんになっちゃったら、嫌だな。 ____トモカ ともかちゃんと文通を始めたのは、もう十一年も前の

          [小説] 記臆

          [小説]それでも湯船に浸かりたい

          来世生まれ変わるのなら、あなたは男子と女子どちらに生まれたいですか? 私はこの質問に迷ったことなど一度もない。来世も必ず女の子に生まれたい。そりゃあ一ヶ月に一度辛い思いをするけれど、男の子に比べて体重も変動しやすいけれど、それでも私は女の子に生まれたい。 私はキラキラしたものや、首回りにこれでもかとフリルのついた洋服が好き。そしてそんな洋服の似合う、女の子特有の丸みの帯びた体型が好き。自分が女の子であることを後悔したことはないし、男の子になりたいと思ったこともない。私は、

          [小説]それでも湯船に浸かりたい

          [小説] ファーストバイト

          「運は使い回し。なくなっても充電できるのよ。信じられないほど良いことが起きても、ありえないほど悪いことが起きても、受け入れてあげるしかないの」 そうやっていつも私に言っていたお姉ちゃんは、高校三年生で婚約を申し込まれた。彼とは付き合っていたわけではないというけれど、仲は良かったという。 私の母は自分の娘の幸せが一番だと言って、お姉ちゃんが自分で選択するように言った。お姉ちゃんは、高校を卒業したいからと言ってプロポーズを断った。 「どうして断っちゃったのよ、プロポーズ」 「

          [小説] ファーストバイト