喫茶 カメハウス

 ピンクを基調とした外観の小さな喫茶店がある。出迎えるマスターは長い白髭をたくわえ、大きめのサングラスをかけた老人。 
(タレントの森田一義がかけているようなサングラス)

 その人は僕が幼い頃から何故か姿を変えず、何故かずっと老人のまま。いつも体操番組ばかりを視聴している。

 注文したロコモコを乗せたトレーを片手に「君ももう常連さんだね」とはじめて話しかけられた。僕はここぞとばかりに「マスターはずっとひとりで」「ウェイトレスは雇わないのですか」と疑問に思っていた質問をぶつけた。

「…………」

 質問の内容がまずかったのだろうか、マスターは暫く宙を眺め、黙ってしまった。

 後にわかったことだが、やはり質問の内容がまずかったのだ。 

 なんでも、この店に雇われるウェイトレスは老人から尻を触られるなど軽度の性被害を受けていた。

 ひどい場合だと、胸と胸の谷間に顔を挟ませてくれなどという雇用者側の立場を利用した性的な強要をしていたというのだ。

 また女性が断れないような交換条件がよく提示されたといい、警察署には生なましい事例が数多く残っている。なかには「強制性交」の事例まであった。

 僕は「性犯罪」を起こすような人間が許せない。湧き上がる怒りの衝動で喫茶店に殴り込み、老人の髭を掴み問いただした。

(アンガーマネジメントしろ!僕!)

だが老人は、信じられないような腕力で僕を突き飛ばす。

 そして、あっけらかんとした軽い口調で語り始めた。

「そりゃお前さん、警察には事例としてあるじゃろうが別にわしゃ捕まっておらんぞい」
「すべて合意だったというのですか」

「合意かどうかというのは、刑事事件においては検察側が強いられる立証はだいぶ困難するぞい」
「わからなければ、やっていないというのと同じだと言いたいのですか」
「いかにも。これ以上のことを聞けば……」
 サングラスの奥の目が怪しく光ると、痩せ細っていた老人の肉体が隆起していく。

「……出すぎたことを聞いてしまいました!」

 日本の刑法では、暴力や脅迫があったか、被害者が抵抗不能だったなどと検察が証明しなければ強制性交とは認められない。
  
 検察側立証には被害者の証言以外に目ぼしい証拠がない場合も多く、捜査機関側には不公平な重荷が科されている。

 

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