鬼滅の刃▪︎二次創作【不死川実弥と粂野匡近】

鬼が憎い。その一心だけで鬼殺隊に入った。同期には既に呼吸を習熟しそうな者もいた。見た目は粗暴ながらその内に秘めた優しさや同じような境遇に勝手な仲間意識を抱いているものの、いまだ果たせない無惨を倒すのは、あのような才能溢れる人物なのだろうと思われた。いや期待せずにもいられなかった。

同期に負けてはいられない。そんな嫉妬に近い憧れのもと、師事したのは岩柱だった。未熟であるがゆえに相性は分からない。だが、当代の岩柱の修行やそのひととなりに救われる部分も多かった。

全集中がようやく型にはまっただろうか。そんなときだった。鬼の討伐の命が下った。場所は相模。昔から鍛治の有名な場所も含み、隠里の鍛治師達とは別に優秀な人材を輩出していることでも有名な場所だ。そこには妖刀という銘で呼ばれる、先先代の風柱が使っていたらしい刀もあるらしい。そこで鬼とおぼしき被害が急速に増えているとのことだった。

 風柱と言っても、先先代は天賦の才に溢れていたと聞く。風柱に師事したものの、その才気は風の呼吸に収まらず、雷の呼吸にも及び、それらを合わせた二つとない呼吸を生み出していたとも。当時の風柱の引退、引き継いだ手前、風を名乗っていたが、先先代は靂(れき)の呼吸を名乗りたかったと伝えられている。野心と向上心に満ち溢れた人物だったそうだ。

 

 相模での鬼討伐。場所や時期もあり、あの同期と一緒になるかと思ったが、合流した人物は違ったが、実力の高さが窺える隊員だった。鬼は日中に動きはない。昼は聞き込みをして、夜を待った。さすがに直ぐに事件は起きないと思った。既に鬼殺隊の何人かが警戒と警備で市中を回っている。

 三日ほど警邏で回った。鬼も移動したのか。そう思った四日目。新たに隊員の補充が行われ、入れ換えが実施された夜。交代要員の隊員が襲われた。駆けつけたときには既に遅く、上半身のない隊員の死体が転がっていた。食い千切られたと言うよりは、刀で両断されたように思われる痕だった。

 鳴りを潜めていた鬼の突如とした動き。合流した隊員と付近を捜索する。鬼は人を食うほど強くなると言われている。それが鬼殺隊のような人材なら格好の餌だろう。移動する前に、のうのうと集まってきた隊員を食すつもりかもしれない。

夜の街を翔た。鬼の姿はない。気配はあるのに。そう思う隊員の背中が燃えた。切りつけられたのだ。鋭い痛みを熱さと誤解する。致命傷ではない。一体誰が?振り返った隊員の前には、日輪刀を構える隊員の姿があった。その動きは雷の呼吸の壱の型に見える。鬼が呼吸を使うのか?そう疑う頭を巡らす前に、鬼となり、強靭な脚力に任せた一閃が隊員の体を両断した。

そうか。夜しか行動しない鬼。それを探すため夜しか出会わない隊員。まさか隊員の振りをしていたとは。どうして気付けなかったのか。ダメだ、逃げろ!共に行動していたもう一人の隊員に、粂野匡近(くめのまさちか)に彼は叫ぼうとしたが、口から溢れる血に溺れてしまい、声が出なかった。

途切れそうな意識が、まるで雷の呼吸の壱の型よろしく跳び跳ね、粂野へ襲いかかる鬼の姿を捉えていたものの、彼は死に際の刹那に願うことしかできなかった。誰か鬼を倒してくれと。

 

 鬼が憎い。その一心だけで鬼殺隊に入った。同期には既に呼吸を習熟しそうな者もいた。見た目は粗暴ながらその内に秘めた優しさや同じような境遇に勝手な仲間意識を抱いているものの、いまだ果たせない無惨を倒すのは、あのような才能溢れる人物なのだろうと思うと、私の内にはそれ以上の野心と嫉妬が起こった。稀有な生まれゆえに持つに至ったらしい稀血の効果は、鬼の肉を食らうことでその能力を一時的に宿すことができた。食べれば食べるほど強く、そして飢えていき、気付けば鬼ではないはずなのに無惨様の声が聞こえ、人間を食っていた。自分はどっちなのか。それが分からないまま、意識と記憶は曖昧になり、気付けば鏡に映る自分の瞳には下弦の壱の文字が刻まれていた。

 最後に覚えている光景は、顔に複数の目を持つ圧倒的な威を放つ長髪の武士の鬼。彼の者から分け与えられた血。恐怖か渇望か。いずれにせよ選択肢のない選択を取り、人を裏切って鬼となったことに間違いはない。妖刀を手に、かつての剣士に倣った。風と雷。風の呼吸は剣速が、雷の呼吸は肉体を使った早さが特徴の技術だと、見取り稽古では気付いていた。だが、才能はない。見た目だけ型に嵌めて、鬼が故に持てた強靭な肉体に任せた技で呼吸の剣術を騙って見せた。

 だが、所詮は見よう見まね。小手先の物真似に過ぎなかった。雷の呼吸の壱の型を真似た居合は、もう一方の隊員を切り裂く前に弾かれた。その粗暴な外見とは裏腹に心根に優しさを持つ、才気溢れる同期。既に風の呼吸を習熟しつつある天才。不死川実弥(しなずがわさみね)が私の前に立ち塞がった。

 

 不死川実弥に粂野匡近は先の鬼の攻撃について言及した。雷の呼吸の技を使うぞ!と。だが、不死川実弥は、そんな訳ないと一蹴する。そんな隙を見逃さずに鬼が剣を振るった。その口からは風の呼吸、壱の型、塵旋風・削ぎが叫ばれる。その剣撃を受けるように不死川実弥も同じく壱の型を繰り出すと、鬼の攻撃の方が大きく弾かれた。

 どうやら型を真似ているだけだ。と不死川実弥は身を以て実感する。粂野匡近に指示しつつ、隊服の鬼を迎え撃つ。とは言え、膂力がまるで異なる鬼の一撃は早さで不死川実弥に遅れを取るが、圧倒的に重い。加えて雷の呼吸の技も繰り出してくるため、手数では及ばないところがあった。また無尽蔵な体力に圧され、徐々に不死川実弥と粂野匡近は劣性となっていく。

 夜明けは待てない。だが、傷付けば傷付くほど不死川実弥の稀血の酩酊が毒のように効いてくる。今は最初ほどの早さも力もない。が、二人の消耗も激しかった。そのとき、鬼が背中を向けた。

 逃げる!と思った粂野匡近は、鬼に飛び掛かった。不死川実弥よりも近かったからだ。だが、不死川実弥はその違和感に気付いていた。風の呼吸の漆の型。使い方によっては回避にも応用できる勁風・天狗風を繰り出した鬼が粂野匡近を飛び越え、その背中を切り裂いた。と同時に偽の雷の呼吸、肆の型、遠雷を不死川実弥へ向ける。

 粂野匡近へ致命傷となる一撃を見た不死川実弥は動揺し、鬼の攻撃への反応が遅れた。躱せない。そう思った不死川実弥だったが、鬼の手は届かない。見ればほぼ体を半分に切断されかけているにも関わらず、粂野匡近が鬼の足にしがみついていた。

 やれ!という檄に不死川実弥は飛び込んだ。風の呼吸を習熟しつつある中でもいまだ出せたことのない玖の型、韋駄天台風の斬撃が鬼の首をはねた。と同時に差し込む夜明けの光。塵と消える鬼を確認しつつも、不死川実弥は粂野匡近に近寄った。助からない。既に虫の息。そんな粂野匡近は言った。任せたぞと。

 

解説

 プロット故の情報&説明不足についての補足です。

ネタバレを含むが思い付きなので、不死川実弥が下弦の壱を倒した物語を妄想してみました。容量的には言い感じでまとめたし、漫画にすれば単行本1冊くらいになりそう。漫画的に描けばネームレスの鬼殺隊員の視点で進む感じ。起に登場する人物が引き続き物語の中心にいるように見せるため。

起に登場した隊員が、転で明らかになった鬼。だから、承の隊員は別で、隊員に化けていたという状況のミスリードをしたかった。何故バレなかったかは、まぁ漫画的なご都合主義ということでご容赦を。

岩柱への師事や鬼の肉を食うとか、黒子牟なんかは原作へのオマージュ。靂(れき)の呼吸は、何か原作と深く関わらせたくないなぁと思い、適当に漢字を調べてみたら、当て字?で靂を、かみのふるめき、とか読むそうで格好いいなと。また(書く予定は全くないが)次回作への伏線にしたかったので。

時系列は、妖刀かみのふるめきを探して黒子牟が相模をウロウロ。かみのふるめきは日輪刀ではなく銘刀だから欲しかったらしい。探すついでに人を殺す。

鬼討伐で起の隊員が行く。以前から鬼食いの葛藤と症状があった故に救われるという描写を入れた。黒子牟と遭遇。鬼化。下弦の月の壱に大出世。で、承へと繋がる。そんなところです。

 もし読んでくれた方がいれば、ありがとうございます!

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