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3.22の停電リスクの裏にある構造的捻れ

enechain代表の野澤です。

今回の停電リスクについて、業界にいる人間として少しだけ声を上げてみます。
※色々な意見も出得るイシューですし、あくまで一つの考え方として建設的にとらえて頂ければ幸いです。

今回の停電リスクの短期的な視点でのサマリー

短期的な視点でのサマリーは、
・先日の東北で発生した地震により発電設備に不具合が生じ、発電能力が低下したところ、
・泣きっ面に蜂で季節外れの気温低下により需要が急騰し、需給逼迫→節電協力要請に至った、
というものになります。

しかしながら、地震で発電設備が故障したところに「寒波」や「猛暑」が重なるというのは歴史的にはそれほど珍しいことではありません。皆さん、東日本震災以降で政府からの節電協力や電力不足による大規模停電のご記憶はそれほどないのではないでしょうか?

より深いところにある、構造的な捻れ

今回、なぜここまで需給が逼迫したのか、あくまで私見ですが記載せて頂きます。

歴史を紐解くと、そもそも2011年の大震災以降、原子力発電所がほとんど再稼働せず、東エリアに至ってはいまだに1機も再稼働しておりません。
また、脱炭素の流れの中で、石油火力の廃止や石炭火力の新設計画の停止が相次いでいる状況です。

そのような原子力、石油比率が減少しLNG依存度が相対的に高まっている流れの中で、
今回のロシアショックによってグローバルの天然ガス・LNG価格が高騰し、燃料となるガス価格>電力価格という価格の逆転現象が起きています。
電力会社からすると発電すればするほど赤字になるため、「燃料切れ」が起こっている
、のが実情です。
・日本においてはグローバルの燃料価格高騰を電力小売価格に適切に転嫁できないため、新電力含めた電力会社に収支のしわ寄せがいく構造になっています
(※既存の、燃料費調整制度という制度もあるのですが、いかんせん10年以上前の発電構成等を前提にしており、その制度を使っても完全に逆ザヤになっているのが実態です)

1構造的な捻れ

この構造的な捻れの結果、足元では各種報道の通り、電力の小売事業からの撤退の動きが顕在化しつつあります。
これは決して新規参入した新電力側だけの問題でなく、いわゆる電力会社 (業界では旧一般電気事業者と言います) の小売事業でも、契約の新規受付停止や大幅な値上げに動いているのが実情です。

2業界の事業状況

第三者的に見ても少なくともロシアショック以降の足元の事業環境は、既に一事業者がコントロールできるリスクを大きく超えており、この状況が見過ごされると、結果的に電力業界が疲弊し、大規模な事業撤退に繋がる可能性が高いと考えています。

業界全体で考えていくべきこと

今回、震災や時季外れの寒波、ロシアショックなど想定外の事象が重なった事で炙り出された捻れではありますし、ここまで予見しておけというのも正直酷な話だとは思っていますが、
起きたことなので業界全体でこれをどう解いていくか建設的に考えることには大きな意味があると考えます。

我々としては、短期的にはバリューチェーンの下流で燃料価格の変動を、一部でも小売価格に転嫁できる仕組みが必要だと考えています (そうすれば少なくとも燃料切れは起こりにくくなる)。
また、中長期的には、これは少し時間もかかりますが、バリューチェーンの上流の供給サイドでLNGの依存度を下げる取り組みが必要だと考えています (そうすれば、近年のガス価格の異常なボラティリティの影響を受けにくくはなる)。

3打ち手のイメージ

以下に、短期、長期での取り組み案についてもう少し詳細に記載します。

(短期的な取り組み案)
短期的には、ガソリン等のように、電力の燃料であるグローバルの原油やLNG価格が電力小売価格にタイムリーに反映される仕組みをつくっていく必要があるのではないかと考えます。
・グローバルの燃料価格の変動とは為替や金利、株式と同じく一国でどうにかなる話ではありません。また、通常、法人ユーザーは為替や原油の変動リスクは抱えた上で事業を実施しているのが実態です。電力も、そのような形に変えていく必要があると考えます。

実際、震源地の欧州諸国では、燃料の価格転嫁と小売り電力料金の値上げの動きが加速しています。一方で、国民生活を守るために、政府が補助金を出すなどの取り組みもあわせて実施されています。
・日本でもなぜかガソリン等にだけは補助金が出ている状況です...。

4欧州における小売価格の推移

5欧州における政府の対応状況

(中長期的な取り組み案)
また、中長期的には、これは資源を持たざる国であるが故のより「エネルギーセキュリティ」的な視点にも関わってきますが、
原子力や老朽の石油火力の稼働率、そして需給バランスを踏まえながら再エネ比率も上げることで、LNG依存度を下げる取り組みが必要ではないかと考えます。
・ロシアショックを経て、グローバルのガス市況が落ち着くまでにはそれなりの年数が必要になる可能性も高いのが実情です

enechainにできること、やっていること

国内電力のマーケットプレイスを運営するenechainに出来ることとして、
・まずは短期的な電力需給のひっ迫に少しでも応えられるよう、全体を見させて頂いている立場として全体最適を試み、1MWでも多くサプライをかき集める (例えば燃料は持っているけど発電出来ない人から、発電余力があるが燃料がない人に燃料を持って行ってもらう 等)
・中長期的な課題解決に向けては、業界のステイクホルダーからの意見を集約し、それを第三者としてフェアな視点で監督官庁にも情報提供、政策提言する
といった取り組みを足元から進めています。

最後になりましたが、今回の震災の影響や節電要請を受けて寒波の中苦しんでいらっしゃる方や、震災による設備復旧や電力需給逼迫の最前線の現場で働いておられる電力会社の方々へ敬意を表すると同時に、
この停電騒動が一過性のものとして取り扱われるのではなく、今後、より中長期的な構造的な捻れの解き方についても建設的な議論がなされることを切に願っています。


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