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(219) 花ぐるま

「伸男、12時半よ、いつまで寝てるの」

母さんに揺り起こされて、伸男は重いまぶたを開けました。開いたカーテンの間から、日曜日のまぶしい光がいっぱいに射しこんでいます。

「おじいちゃんが帰らないのよ。お昼までにはいつもきちんと帰るのに。見に行ってくれない?」

母さんは布団カバーとシーツをひっぺがし、ついでに伸男のパジャマも剥ぎ取って、洗濯物の山を抱えて行きました。

伸男は目をしょぼつかせながら、川の方へ行ってみました。おじいちゃんは雨さえ降らなければ、電動車椅子に乗って出かけて行きます。行き先はたぶん大木のある所です。木肌に手を触れて、ほう、と声を上げているおじいちゃんの笑顔が浮かびます。

川の土手沿いの見事なサクラ並木の下で、花見客がにぎわっています。その一帯から、どっと歓声が上がりました。伸男より少し年上の、働いている人たちの一団のようです。

近づいてみると、なんとその真ん中におじいちゃんがいました。 


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車の上にタンポポとサクラの花が飾られ、おじいちゃんははにかみながら、にこにこしています。

花のそばには、紙皿に取り分けられた、にぎりめしと卵焼きがのっていました。

伸男に気づいて、おじいちゃんはにっこりうなずいて、車のスイッチを入れました。車が動き出すと、

「またね、おじさん」
「元気でね!」
「気をつけてね」

サクラの花びらといっしょに、若い声がおじいちゃんに降り注いでいます。写真を持って来ればよかった!伸男まで元気をもらっていました。

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