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(238) 冬のサルスベリ

両親の銀婚式の記念樹として、早苗が贈ったサルスベリは、花時を3度過ぎてもまだ花をつけたことがありません。

丈は4メートルもあり、幹の周囲は両手で包みきれないほどです。植木屋さんが7人がかりで、手抜かりなく植えてくれたお蔭で、根づきは成功しているらしく、時分には見事に葉を茂らせます。

贈り主としては、綺麗に咲いた花を見せたくて、卵の殻を根の近くに埋めたり、コメのとぎ汁をまいたりして、やきもきしていました。

でも、もし花が咲いたとしても、二階のベランダからでも見ないと、階下の茶の間からは見えないかもしれないほど、背が高すぎます。母は、茶の間に座って見えるくらいの、小ぶりの木が欲しかったと、つぶやいたことがあって、選ぶの失敗したと、早苗は後悔もしていました。

母の友人が来訪したある日曜日、早苗はお茶の接待をしながら、話の席に加わっていました。窓越しに見えるサルスベリの裸木を見て、その人は言いました。

「まだ手入れをしていないの?葉が落ちた頃に、枝を全部切り落としておかないと、次の年に花が咲かないのよ。サルスベリは新しく芽生えた枝にしか花がつかないそうよ」

そうだったの! 早苗は母と顔を見あわせました。

「ウメも茶の木も、切りすぎるくらい切った方が、よく実るでしょ」

その日、早苗はすぐに高枝ばさみで、思い切りよく小枝も大枝も切り落とし   ました。


サルスベリは今、コブコブの丸裸で、いかにも寒々しそうです。でも、こんな姿で、花芽を身内に秘めて、冬をしのいでいくというのです。あの人の話はほんとだったのかしら。ほんとでありますように!

思い迷いながら、今年こそ咲いて欲しい、どんな花色になるのかと、早苗は期待をこめて花時を待ちつづけているのです。

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