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(235) 萩の花

担任の先生の後ろからその人が入って来た時、教室は一瞬静まり、それからどよめきました。城 町子、女優のような名前の転校生でした。

背が高くて、すばらしく色の白い、ほほがほんのりバラ色の美しい人です。髪の毛が自然にウエーブしていて、朝子はため息をつきました。

その人が先生の指名で、朝子の隣の席に座ることになりました。

軽く会釈して、ニッコリしたその人に、朝子はドキドキして、何でもして  あげたくなりました。教科書は朝子のをいっしょに見、校内を案内し、昼にはお弁当を分け合って、その日のうちにすっかり仲よしになりました。

おまけに引越してきた先が、朝子の家の近くとわかって、さっそく招待しました。

次の日曜日、町子さんはたくさんの萩の花を抱えて、やって来ました。     新しい家の庭に咲いていたのだって。

「この花、だいすき」

いつもうつむきかげんの町子さんには、萩の花のつつましさが、しっくりと似合っていました。



その時、花の間から、緑色の毛虫が頭を出しました。朝子は声をあげて、 とびのきました。腹をヒクヒクさせながら這う虫は、気味悪くて見ていられないのです。

ところが、町子さんはその虫を、ひょいと手のひらにのせ、じっと見つめて

「きれいねえ・・」
とつぶやきました。思いがけないことでした。

人って好みも感じ方も違うのだ、と朝子はあらためて驚いたのでした。

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