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3章-(2)『時の旅人』とメアリー女王

明日は1日、アリソン・アトリー作『時の旅人』の小説の場面を追うことになる。物語の粗筋を思い出して、心づもりしておこう。

◆ 物語:繊細で病弱なペネロピーはロンドンの自宅を離れ、ダービシャーに住む、テイッシュ伯母とバーナバス伯父の「サッカーズ農場」で療養中だ。 ある日、ペネロピーが何気なく扉を開けると、400年前のエリザベス朝時代の貴婦人達が見え、台所では家政婦や女中に出会う。ここは「バビントン 陰謀事件」で有名な一家の別荘(バビントン・マナーハウス)だったのだ。

祖母から受け継いだ透視能力を持つペネロピーは、たびたびその世界へ紛れ込み、その時代の暮らしや事件に、しだいに巻きこまれていく。

●  幽閉されているスコットランドのメアリー女王救出に奔走するバビントンの殿様、それを気遣う奥方や弟のフランシスと母上・・。交流が深まるにつれ、彼らに強く惹かれていく。ペネロピーはバビントン郷の歴史に残るその後の運命  (=捕らわれ、四つ裂きの刑に)  と、メアリー女王の(絞首刑)を 知るゆえに、警告したり助けようと気をもむが、信じてもらえるはずもない。

●  時の流れは変えようにも変えられず、歴史に残る事実は動かしようもない。それでもなお、ペネロピーは一縷の望みを捨てきれず、彼らのために 何かしたいと煩悶する。そんな彼女に疑念を持つアラベラ (=フランシスの従妹) に、地下の古いトンネルに閉じこめられ、あやうく命を落しそうになる。現代のサッカーズへ戻れなくなるところを救ったのは、下働きの口の  きけないジュードであった。

●  舘が体験した激しい過去のドラマが、緊迫した空気となって舘を包み、  時 を経ても変わらず営まれ続ける生活の匂いと混じり合って、ペネロピーの五感に迫ってくる。その緊迫感が読者にも強く伝わり、ペネロピーに寄り  そって2つの世界を行き来し、いつしか「時」を旅している。そして女王  救出用トンネルが発見されずに済んだこと。バビントンとフランシスの兄弟が、フランスに逃れたことを暗示する終章に、ほっと吐息をつく。残酷な  現実の未来の運命は、いっしゅん忘れて。哀切な余韻の残る、深い体験を  共有した思い・・。


メアリー女王幽閉  : イングランド女王エリザベス1世とスコットランド 女王メアリーは、従妹同士なのだが、エリザベスの即位について、メアリーは自分の方に正当な王位継承権がある、と主張し続けた。エリザベスが身分の低いアン・ブーリンの娘であり、母ブーリンが父ヘンリー8世に処刑された後、父に〈庶出児〉宣言を受けたこと。義姉のメアリー・チューダー女王時代は、エリザベスはロンドン塔に幽閉されていたことも、メアリーが王位権を主張する理由だった。メアリーは父母共に王族であり、英国王ヘンリー7世の孫である。メアリーはフランス王に嫁ぐが、夫の若死に後、スコットランドに戻り、女王となっていた。

●  レスター泊ダッドリーとの再婚話の使者として来訪した「ヘンリー・ダーンリ」に、メアリーは熱烈に恋し、半年後、ダーンリと結婚。が、まもなく軟弱な夫に愛想をつかす。1年後、のちのジェームズ6世(エリザベス1世亡き後は、英国王ジェームズ1世)を出産するが、夫を避け続けて侮辱。  一方で、主席顧問の軍人、男らしいボスウェルに忘我の恋をし、王冠を与える約束で気を引く。

●  ボスウェルはメアリーの援護で、麻疹のダーンリを一軒家に隔離し、深夜、爆発物で暗殺。3ヶ月後、2人は挙式する。しかし、民衆、貴族たちの強い反感を買い、ボスウエルは戦いに敗れ欧州へ逃げ、捕まり獄中で狂死。

一方メアリーは湖の島の貴族邸に幽閉される。極秘の出産後、イギリスへ逃げ、エリザベスに救いを請うが、王位継承権に固執するメアリーを、エリザベスは自己保身もあり、幽閉継続と宣告。以後、メアリーは19年間、幽閉地を転々と変えられ、1587年、バビントンのエリザベス女王殺害陰謀事件に 加担した罪で処刑される。

● 2人の女王は、生涯出会うことはなかった。2人の宗教の違い(エリザベスは英国国教会、メアリーはカトリック)と、性格の違いも対立の原因でもあった。エリザベスは慎重、猜疑心強く、不決断で、見栄っ張り。メアリーは毅然として、大胆、如才なさ、情熱的、女性的肉体に、男の気性を持っていた。(ツヴァイク著『メアリー・スチュアート』より)

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