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(161) 不思議なキノコ

今年はもう出ないのかしら。星さんは東窓の外の、柿の木の周辺を、このひと月たびたび見やりながら、あきらめかねていました。

この十数年、ほぼ毎年秋になると、ほんのつかの間、面白い光景が展開していたのです。

最初に見つけたのは、その頃中学生だった長男の茂でした。

「変なものが出てる!」
という叫び声に、娘たちと夫も加わって、5人が窓に群がりました。

柿の木の下の軟らかい庭土から、直系2センチあまり、長さ10センチほどの黒っぽい軸が、伸び出しています。

しかも、そのてっぺんの帽子のような形の下から、真っ白な物が少しずつはみ出して、広がり始めているのです。

「見たこともない物だね」
「何だろう」

夫と茂はさっそく図鑑をめくりました。

その間にも、白いものはじりじりと広がり、網状の落下傘か、リンゴを包む網ネットの形になりました。


不思議なキノコ

「これだ!キヌガサダケだ!」

茂の指さした写真にそっくりです。

「竹林や山林でまれに見られる美しいキノコ。中国では干して食用にする」とあります。

〈まれ〉なキノコがわが庭に生える!星さんには吉兆に思えました。

開ききると、レースのスカートを広げたようですが、しぼむのは早く、全部で2,3時間ほどのドラマでした。

それから毎年、同じ当たりに、そのキノコが姿を見せるようになっていたのです。どうして1本だけなのだろう。広がって、あたりいっぱい群がって出るといいのに、と思いながら。その1本を楽しみにしていたものでした。

建て替えをしたためのごたごたで、柿の木の周辺の土が踏み荒らされて、今年は眠ったままでいるのかも・・。時間が経てば、また出て来るような気がしているのですが・・。

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