(138) 穴埋め

美奈ちゃんへ。いつもの野菜の代わりに、風変わりな物を送りつけてごめんね。うちの人が、今日７匹も大きなタコを茹でて

「できたぞ、どこに配る？」と言いました。

３日前に、りっぱなエビを２０本以上も市場から買ってきて、（食べる人は息子と３人だけなのによ）近所に配り歩いたばかりだから、きまり悪くて頭を悩ませて、それで八王子のあなたを思い出したのでした。

そちらも２人住まいだから、大きなタコ２匹でも持て余すでしょうに、３匹もなんて心苦しい・・でも助けてね。

今までずっと美奈ちゃんにも内緒にしていたのだけど、うちの人の困った道楽なのです。

戦後のひもじい思いをした子ども時代が長かったでしょう。月給取りになったら、思いきり食べたい物を食べようという夢をずっと実行してるの。

安月給の中から、最初に自分用の小遣いを取ると、市場で最高級の魚や肉をどさっと買い込んできます。食べきれないほど・・。

一週間後には「お金くれ」って言うの。私がパートを辞めたくても辞められないのは、そういうわけだったのよ。

うちの２人の子どもたちは、小さい頃、毎日のようにケーキを買ってもらってたので、今ではカップラーメンやスナック菓子の方が好きみたい。

あの人の食い道楽は、私の着道楽と同じ、当分やみそうもないわ。
小さい時の不足の穴埋めというのは、一生かかるものなのかしら。

淑子より