(165) 晴れ着
そのパーテイは私の経験する最大規模のものになりそうだった。数10カ国から参加した1000人以上が、都心の名高い会場の大広間に集まり、4日間続いた文学の会の、最後の打ち上げをしようというのだ。
そんな時、私の悩みの種は服装だった。場にふさわしい華やかさのあるワンピースと言えば、一枚しかない。オフホワイトの地に青紫の花が一面に飛んでいて、私の大好きな服だ。
ただ問題なのは、いつのまにつけたのか、前ウエストの下に、500円玉大のしみがあって、クリーニング屋でも、お手上げと言われてしまったこと。
大事な服ほど、どこかにシミをつけてしまう私は、結局それにするしかないと決めた。シミの上に両手をのせ、つつましく人混みにまぎれていよう、と。
ところが当日、4日の間に顔見知りになり、話し合ったこともある人たちに取り巻かれてしまった。
「素敵なドレス!」
「どこへ行けば、同じ物が買えて?」
「私もほしいわ」
布に触れられ、羨ましがられて、私は困惑。汗をかいた。八王子で数年前に買い求めた品が、その時手に入る当てはないのだから。
「ミヤコ、レッツ ダンス!」
声かけられて、ぐいと腕を引っ張られた。救い主はオーストラリアのリリイだった。パーテイなのに、彼女は前日と同じTシャツ・ジーパン姿で、私を踊りに誘い、くるくる回して私を笑わせてくれた。私の服の懸念など、吹き飛ばしてくれた。何を着たってよかったんだ! 何より楽しむことね!と、目を開かせられた。
会の後、個人経営の古い洗濯屋で、そのシミは跡形なく消してもらえて、本物の晴れ着に戻ったのだった。そして、チェーン店ではなく、小さくても丁寧に仕事してくれる個人店の良さを、見直せてほんとに良かった。
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