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1章-(7) ゴッホ美術館など

お昼に何を食べようか。夫は早くもパン食は敬遠気味で、中華料理店を探すことになった。せめてラーメンか何か麺類が欲しかった。

駅からダム広場を越え、王宮の裏手の通りを適当に歩き続けていると「台湾料理とインド料理」の看板があったので、入った。入ってすぐ、失敗した、とひらめいた。昼食時なのに、客がひとりもいなかったからだ。高級料理店風に、ナプキンが各席にきちんと飾り置きしてある。私たちが皮切りになったのか、座って注文しているうちに、少しずつ客が入ってきた。

が、勘はずばり当たった。五目ラーメンを頼んだのに、そのまずいこと! 豚肉が臭くて、麺も臭くて、吐き気を催すほどで食べられず、夫の牛骨つきバラ肉煮込みラーメンを、少しわけてもらって食べた。水のサービスはなくウーロン茶に6.5ギルダー(410円)取られ、全体で56. 5ギルダー=3560円で、なんてひどい店だ、とがっかりした。日本なら、500~600円でずっと おいしいラーメンが食べられる、と捨て台詞を残したいところだった。後味の悪い、オランダで初めての外食だった。

運河沿いにゆっくり歩いて、どこかの美術館に入ろう、ということになり、巨大な国立美術館は後まわしにして、その裏手から右へまがって〈ゴッホ  美術館〉へ。こちらは大変な人出で、行列が道にまであふれていた。

2階だけを見てまわった。黒の時代の陰鬱な絵から、明るく変わったパリ  時代、そして画面のすべての線がねじ曲がって、狂おしい晩年の風景画や  自画像を見た。見続けるのが、辛くなる絵だ。

見終えて外へ出ると、真っ黄色な花がしだれるように垂れ下がっている木を2本見た。藤の花に似ているが、葉や枝は違っている。道行く人に尋ねてみたが、誰も知らなかった。あれほど存在感を誇示して、見事に咲いているのに、話題にもしないのだろうか。

運河沿いにはすべて同じ並木が連なり、明るい緑を広げている。そして、  その下には、昨日見かけたあの名前を知らない花びらが、風に吹き寄せられて、山をなしている。花びらはカラカラに乾いていて、白ベージュがきれいなので、これを枕に入れたら、バラの枕みたいにすてきと、私は言いながらすくい上げているところを、写真に撮ってもらった。

それにしても、その木の名前が知りたくて、また通りがかりの中年女性に  問いかけたら、
「うちの庭にも同じ木があるけれど、名前は知らないわ、私も知りたいのだけれど、誰か他の人に訊いてみて」と言われた。

果物と野菜を売っている店を見つけ、リンゴとオレンジを4個ずつ買った。近くのミニ庭園のベンチで食べた。クレメンタインという種類のミカンが おいしかった。

「もう歩けないよ」と私が音を上げ、4時のベルを聞きながら16のトラムでムント・プレインまで乗り、ひと駅分を歩いてホテルへ戻った。ホテルの近くは雑多な店が並ぶ界隈で、怪しげなポルノ館の看板もある。果物屋肉屋などに、できあいの料理をいろいろ売っていて、レタスを刻んだものだけで百グラム5.8ギルダー(365円)など、高めだ。誘惑されて、買いかけたが、朝と同じ食事パターンになると思い、止めた。

ホテルの前には、何百もありそうなほどの藤の椅子が並べてある。すべて通りへ向けられていて、ほとんど空席がないほどに占領されていた。人々は ビールを飲んだり、何か食べながら、しゃべり合っている。昨日ここを通った時は、キイキイガラガラ音のするカートを引いていたので、いっせいに 視線を浴び、ホテルに入るまで長い間、注目され続けて、居心地悪かった。

ようやくへやに帰り着くと、西日でへやは蒸し風呂のようだった。フロントの女性にクーラーの入れ方を教わり、しばらくして、ようやく居心地のいいへやになった。

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