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(179) 発表会

「3度も念を押したはずですよ。明日に間に合わないのなら、もういつでも結構ですっ!」

電話を切ったママのいつにない剣幕に、朝子はハラハラしました。

「3ヶ月も前から約束してあったのに、またまた期日遅れなんて、あれでもプロの洋裁師と言えるかしら」

「明日何を着ればいいの、ママ」

朝子は泣きたい気分です。明日のピアノ発表会には、仲よしの愛子とロングドレスで連弾することにしていました。他の人たちも皆、いつもそれぞれに、舞台ではお姫様みたいに着飾っているのです。

ママはしばらく考えて、何を思ったのか、めったに開けない天袋の奥から、大きな箱を取り出しました。

ふたを開けると出て来たのは、ベールと真っ白なロングドレスでした。

「わあ、お嫁さんみたい!」
「ママが結婚式のお色直しに着たの。朝子のおばあちゃんは、簡単なのしか作れない人だったけど、ママのためにいっしょけんめい手作りしてくれたの。大事な形見よ」

朝子には,少し横幅がたっぷりし過ぎのようです。ママは一大決心の顔で、針仕事にかかりました。朝子はいそいそと、台所仕事を受け持ちました。ママは、今夜はオムレツの予定でしたから、ママの代わりに作ります。



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翌朝、壁につるしたドレスを見て、朝子は歓声を上げました。ふわっとした半袖も胸元のフリルも、清楚な感じで素敵です。

「頼んだ服ができなくてよかったあ!」
「いつのまにか大きくなってたのねえ。これが着られるなんて・・。おばあちゃんも喜んでるわ」

ママもご機嫌回復のようです。


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