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4章-(5) ヒヨコの住処

「ひゃあ、かわいい!」

ヒヨコはよたよたと板の間を歩いた。袖の中の長旅で、弱ってるみたいだ。

すえととめ吉の騒ぎに、台所で朝めしを食べていたあんちゃんが、のぞきに来た。                                                                                                            「おう、ええもんもろたのう。啓一がくれたんか。こりゃ、すぐにも箱に  入れちゃらにゃ、ネコや犬にやられるで。よし、わしが作っちゃろう」

あんちゃんはすぐに、物置へ走った。 

あんちゃんは道具入れの木箱の中身を出して、木箱とわらをひとつかみ持って、戻ってきた。わらを小さく切って、こんもりと巣のようにして、箱のすみに置いてやった。

「前側に金網をはりてぇけど、うちにはねぇのう。細竹を使うか・・」      あんちゃんは本家へ行く時間を気にしながら、あの井戸へと走って行き、  井戸の近くから細竹を3本取ってきた。

かよはすぐにエサの準備をした。啓一のくれたえさを水でやわらかくして、大根葉を細かく細かく刻んでまぜて、皿にのせてやると、ヒヨコたちはすぐに食べ始めた。

「明日から、こげんして、えさをやるんで。やわらけぇ草を見つけたら、  取ってきて、きざんでな」
とめ吉とすえは、こくんこくんとうなずいて、うれしそうにヒヨコたちを 見守った。

「もっとえさがあるとええけど。ぬかやおからがええかも・・啓ちゃんに  よう聞いときゃよかった。そうじゃ、つるのおかゆにした時の、米粉が少し残っとるけん、うちが今度帰ってくるまで、あれ使うてな」

あんちゃんはその間に、大急ぎで細竹を箱の高さにつぎつぎ切っていった。

「もう時間がないけん、わし、本家へ行って、帰って来たら、くぎで打ち つけちゃるわ。せぇまで、間に合わせに、のりで貼っとくかのう。すきまをあけるんぞ。ヒヨコがすきまから見えりゃよかろ。ネコが入いれんくれぇのすきまぞ」

「うん、わし、のりで貼っとかぁ」ととめ吉が引き受けた。

かよはさっそく、かあちゃんにお灯明を灯し、いつもの布団干し、掃除、 洗濯にとりかかった。 

とめ吉は、わずかの米粉に水を注いで煮て、のりを作りながら、せわしなく動くかよに、大きな声で伝えた。                  「シカ婆が寝ついとる、て言うてだで。水くみにわしが行ったら、井戸ん とこで、留おっちゃんが言うとった」

かよは最後の布団1枚を取り落として、ふり向いた。            「ほんまに!うち、行っちゃらにゃ。あげんよう世話してもろたに、なんもお礼しとらんが・・」

「ねえちゃんがこないだ戻ったろ、あれから2回来て、晩飯作るの手ごう してくれたんじゃ、そんから来んけぇ、悪うなっとんじゃ」

かよは思いついて、おトラさんにもらった揚げせんべいを、3枚布巾にくるんだ。                               「ちょこっと行ってくるけんね」

かよは足早に隣へ向かった。

シカ婆の家にはだれもいなくて、納戸のすみの布団にくるまって、シカ婆 だけが横向きに寝ていた。入って来たかよを見て、目をしょぼしょぼさせた。かすれ声を上げた。                         「かよか。わしももう、お終ぇが近ぇみてぇじゃ。じいさんの法事をすませて、気がぬけたんかのう」

かよは布巾の中の揚げせんべいを見せながら、              「これ食べてみぃ。噛まんで、口に入れてぇたら、ちぃとずつ溶けて、力がつくで」

そう言って、せんべいの隅を割って、シカ婆の口に入れてやった。   「うう、なつかしのう。わしもこれ、好きなんじゃが、今年は作れんじゃった。うめえ」

シカ婆はフガフガ言ったが、言葉はかよにも聞き取れた。ひとりでも食べられるように、かよは1枚をひと口で食べられる大きさに割って、側にあった皿に載せておいた。

「婆ちゃん、元気にしといてなぁ。うち、婆ちゃんが頼りじゃけん。今日 1んちの里帰りじゃけん、仕事ぎょうさんあるけん、帰るけんど、これ食べて、元気だしてぇな」

かよはシカ婆の両手に、自分の若い血を注ぎ込む思いで、しっかりとにぎりしめた。

家に帰ってみると、とめ吉とすえの2人で、木箱に細竹が張り付けてあった。最後の一郭だけ開けたままにして、ヒヨコをそこから入れたらしく、ヒヨコは中で、えさ皿のえさをつついている。

「ええげんに間を開けて貼れたんなぁ。このすきまのとこに、風呂敷をかけような。ネコにやられんように」

すえがにこにこして、すきまから見えるヒヨコを見飽きないでいる。啓一がヒヨコをくれて、ほんとに有り難いことと思いながら、かよは掃除と洗濯に取りかかった。

その夜、あんちゃんが風呂敷をはずして、細竹を半分まで切って、釘で打ち付け、下半分は開け閉めができるように、蝶番の代わりに、布をのりで貼りつけてくれた。

「けぇで明日から、安心して飼えるで。とめとすえ、頼んだで」     2人は嬉しそうにうんうんとうなずいた。

「わしも今度、中島に行く途中のとうふ屋で、くずやおからをもろうて来 ちゃらぁ。米屋のぬかももらわんとな」

あんちゃんがそう約束してくれた。かよはあんちゃんが同じ事を考えたたんだ、と嬉しくなった。

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