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(239) 雪踏み

積もった雪の上に、まだしきりにぼたん雪が降っています。

お咲さんはソワソワと身支度しました。ウールのズボンに厚い靴下、夫の形見の黒長靴の上から、スキー用のスパッツをはめれば、足元は万全です。

「ちょっと甘納豆を買いに・・」

奥へ声をかけると、嫁が飛びだしてきました。

「こんな日に出かけなくても、私が行きますよ」
「年寄り扱いしないどくれ」

お咲さんはガラス戸をピンと閉め、大きな傘をパンと開きました。

雪の日なんて、ここらじゃ、年に1,2回だよ、あと何回楽しめると思ってるの!

お咲さんは、白い雪をかぶったイチョウの遠くまで続く並木を、ほれぼれと眺めました。それから、車道との境目に吹き寄せられた、雪の一番深いところへ、ズブズブと長靴で踏みこみました。 
 
フフ、これをやらなくちゃね。

1歩ずつ足跡をつけながら進むうち、目の端に男物の長靴が、お咲さんの足取りに合わせて、止まったり進んだりしているのが見えました。


だれだい、あたしの跡をつけたりして、とふり向くと、うらやましげな目にぶつかりました。

「それは何というものです? どこで手に入りますか?」

お咲さんの長靴あたりを見つめています。視線で気づきました。

お前さんも雪踏みしたいんだね。ズボンぬらさずに。

笑いをこらえて、お咲さんは答えました。

「スパッツだよ。スポーツ店にあるよ」

新しいお仲間ができるようです!

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