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ツナギ5章(4)チノと交換!

3人でぎゅう詰めにして荷造りをし直した。ワラ沓が20を越えるほどある。じっちゃが入れてくれた沓は、いつでも使えるように、カゴの外にひもでぶら下げることにした。

チノがそっと近づいてきて、里芋の葉に包んだものをツナギに差し出した。

「途中で食べて、3人分あるの」

「ありがとう。何もかもとってもうまかった、ありがとね」

ツナギはチノに何かあげたくて、何かないかとうろうろした。

そうだ、あれをあげちゃえ!ツナギは胸をさぐって、ひもにくるんで下げたクルミの垂れ飾りを、取り出した。山を行く時のお守りで、飢えた時の助けの実でもあった。

カゴに荷を押さえ込んで、縛っているゲンたちに背を向けて、そっとチノに差し出した。

「これ、あげる」

チノはほんのり温かいクルミを受け取ると、嬉しそうにえくぼを浮かべた。

「りっぱな実ね。うれしい、ありがとう!」

小さくそう言うと、チノはちょっと首をかしげてから、思い切ったように、手首にはめていた腕輪のひもをはずすと、ささやくように言いながら、差し出した。

「もう当分会えないもの・・」

ドングリをひもでつないであって、かすかにぬくもりがあった。ツナギは叫びたいほど嬉しいのを、満面の笑みでこらえた。体中が熱くなって、顔が真っ赤になっているのが、自分でもわかった。

背を向けて荷造りしていたゲンは、何も気づかず、カゴをドンッと置くと、ツナギをうながした。

「急いで、広間へ行って、挨拶してから出かけよう」

3人が広間へ行くと、宴会を始めていた村人皆が、口々に礼を述べ、村オサが立ち上がって、深々と3人に頭を下げた。

「ゲン、父上に村中で感謝していると伝えてくれ。貴重な海の魚や塩を3度も届けてくれたとは、まことに有難い。冬の間、布は精一杯織っておくから、春に来てくれるのを、待っておるぞ。               3人で帰れるか? 誰か行かせようか?」

「いえ、大丈夫です。道はよくわかってますから。な?」

とゲンが振り向いたので、シオヤとツナギも大きくうなずいた。オサを初め皆が立ち上がって戸口まで見送ろうとするのを、ゲンが押し留め、別れの挨拶と、手土産の礼を丁寧に述べて、3人は広間を出た。

出口で待っていた妹のチカが、早口でツナギに言った。

「皆で洞穴に住んでるって、ほんと? チノといつか行ってみたいね、と 夕べ話してたんだ。サブに元気で、って言って!」

ツナギは笑ってうなずいた。宴会の裏方で忙しいのか、チノの姿が見えなかったのは心残りだった。

外へ出て歩き始めると、強い西風に追われて、木々の間の空を、重く黒い雲が動いているのが見える。まだ日は高いはずなのに、早くも山道はうす暗くなり始めていた。

登り道をたどりながら、ツナギの後ろから、無口なシオヤが珍しく     つぶやいた。

「こんど村を作るとしたら、どこにするだろ?」

そんなことを考えてたんだ、シオヤは! ツナギは驚いた。

すると、ゲンが一番うしろから声を上げた。

「冬の間じゅう、その話でもめるね。オレも考えてるけど・・」

オレだって考えてる、とツナギは胸の中で叫んだ。ゲンが訊いた。

「シオヤなら、どこにする?」

「向かいの山はどうかな。焼き物場の続きの、墓場の上の方だ」

あそこだと洞からずいぶん遠くなるな、とツナギはすぐにそう思った。  それですぐに、ツナギは口を出した。

「あそこの木をぜんぶ切るのは、たいへんだよ。びっしり生えてるもの」

するとゲンもすぐにつないだ。

「オレもそう思う。窯場の奥とその左側の森は、かなりまばらだから、どうかなと思ってるんだ」

実は、ツナギもそれを考えていた。姉夫婦や伯父たちの近所に、新しい村 が広がるのは、望ましい感じがする。洞からも近い方だし・・。ただ、伯父たちがカメ作りのための、粘土層の部分を侵害しないように、考えなくては・・。

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