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(166) 事故

雨戸を開けると、夕べまでの雨がうそのように、まぶしい光がなだれこんできました。

「明けない夜はない、のね」
と、原夫人は吐息といっしょにつぶやきました。

一睡もできなかったはずの夫が、無言で列車の時刻表を調べています。

夢ではなかったのです。

夕べおそくかかってきた一郎からのあの怖ろしい電話は・・。これからすぐにも、海辺の町の一郎の元へ、駆けつけねばならないのでした。

原夫人の重くかすんだ頭に、息子のかすれ声が蘇ってきました。

「ごめん、事故っちゃって、すぐ来て!」
別人のような沈んだ声です。

雨の高速道路でハンドルを取られ、ガードレールに衝突してスピンしたところへ、後続車に追突された、と言うのです。

「けがは?同乗者はいたの?」
「ひとり、怪我しちゃって・・」

動転した原夫人には、一郎の説明が飲み込めません。

めちゃめちゃに壊れた車、3人は無傷で無事、一人だけほんの軽症・・とか。遅すぎて、今すぐ出かけるのはムリ。ともかく夜明けと共に、わが目で確かめることにして、長い一夜を過したのでした。                


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「車を持たせれば、事故の覚悟もいる、という事だ」と言った夫の言葉に 腹を据え、原夫人は一人で出かけました。夫は会社で大事な会議のある日 でした。

病室で、負傷者の笑顔で迎えられた時の安堵と感謝! 原夫人はどっと涙を溢れさせてしまいました。

シートベルト着用と、前座席の背もたれにしがみついた機転が、大惨事となるところを免れる幸運を招いたのでした。車は確かに大きくつぶれていましたが、本当に一人だけの軽傷ですんだのは、幸いとしか思えませんでした。


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