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 6章-(5) 両校の激戦

さすがは恒成だった。レシーブは確実、スパイクは強烈、その上ブロッキングも強力だった。星城側は押されて、なかなかサーブ権が取れない。

再びポールのトス、結城君のスパイク。あっという間に、ボールは敵の  ど真ん中の隙間にストンと落ちた。大歓声!やっとサーブ権が星城側に移った。が、すでに4点を失っていた。

香織は身を乗り出して、食い入るようにボールの行方を追った。特に、結城君の動きに目を奪われていた。彼がアタックを決め、ポールと手を打ち合って白い歯を見せた時、香織も思わず笑顔になっていた。

試合は進んで13対8.星城は押されながらも善戦していた。応援団の声援も大変なものだ。サービスエリアに出て、サーブする選手の名が、合唱の ように連呼された。

結城君の番となった。

「ユウキ、ユウキ、ユウキ!」

の合唱を背景に、バシッという音。レシーブした恒成側の手からボールが はじけとんで、場外へ。アウト!1点追加。どっと沸く観客席。

直子が後ろから香織の両肩を押さえて、膝立ちになった。

「ユウキ、ユウキ、ユウキ!」

合唱は続く。香織は口を固く結んで、祈るように結城君の手元を見つめた。

2度目のサーブ。ビシッ。ボールは楕円形にゆがみながらのカーブを描いて、腰を落して待つ敵の手に落ちた。受けはしたが、球は斜めに飛んで、 あわてた仲間がやっとライン外で打ち上げ、3人目はとにかく星城へ返す ロングパスとなった。

星城のチャンスだ! 敵の態勢が整わないうちに、時間差攻撃をかけて  成功。が、15対12で負けて、コート・チェンジ。

「ユウキ君て、すっごい」

香織の後ろでざわめきが起こった。

「かっこいい。きりっとして、爆発力ある」
「ファンになっちゃった」
「後で待ち伏せしよう」
「うん、押しかけちゃお」

直子が香織の後ろから口を寄せてささやいた。

「ほうら、取られちゃうよ。ポールも人気あるけど、あたしたち毎日電話 してるもん。相性抜群みたい」

香織はつんと鼻を上げた。そんなの気にしない、というつもりだった。  でも、胸の中はざわめいていた。やっぱり取られたくはない。喧嘩友だち でも、妹代わりじゃないとしても、結城君とつながっていたかった。悔しいけど、ほんと魅力ある。見てるだけで、胸がドキドキする。

エネルギーを1点に集中させて、サーブし、ジャンプし、ブロックし、スパイクし、成功すれば、仲間と肩をたたき合い、失敗するとドンマイと慰め合う。全力を出して力を合わせている、爽やかさと美しさが鮮烈だった。

大声援にもかかわらず、星城は第2セットも失った。15対13。    そして、ファイナルセットの第3試合で、結城君は指を痛めた。タイムが かかり、結城君は香織の目の前を、マネージャーの方へ走った。

応援席からどよめきが起こった。直子の叫び声が結城君を追った。

「ユウキさん、がんばって! オリも来て、応援してるよー」

香織は真っ赤になって、身をすくめた。でも、結城君はふり向かなかった。香織は無視されたようで気落ちした。

代わりに交代要員の武田君が入って、試合は続行された。が、恒成は勢いを得たように、得点を重ねていった。7対2.このままいけば、ストレート 負けになってしまう。やがて、サーブ権が武田君に回って来た。

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